幕間

<閑話>出会い

 俺とひとみがショッピングモールでデートをしてる中、秀子達が早めに行きそうなのは分かっていた。


 だが、早く行ったことによって色んな出来事が生じていたことを予想することは出来なかった。


 これは、俺がみんなの所に着くまでのちょっとした一幕。


 <秀子side>


 私達は、前日から仕込んでいたケーキを各自で持参をして、前に下見した先輩の親戚の店に向かっていた。


 先輩からは『7時にはそっちに向かう』との連絡が来たのと『おばさんにはすべて説明してあるから』とメッセージが入っていたので、邪魔になるかもしれないが少しでも手伝おうとみんなと相談して早めに向かうことにした。


 先輩の言う通り、鶴見からだと説明が大変だと思ったので学校の最寄り駅の一つ手前の駅で降りて向かうことにしたのは、その方が圧倒的に近かったから。


 はぁ~、これも先輩の見えない気遣い。


 駅から歩くこと数10分で目的地に着くと暖簾はなく、閉まったままだったので私は試しにドアを引くと開いたので中に入ってみた。


「あ、すいません。今日は……あら?もしかしてかずの後輩の子?」

「はい、そうです。7時からとは聞いていたのですが少しでも手伝えたらと思いまして。ご迷惑ならその辺で時間を潰しますのでケーキだけお願いできますか?」


 私は、申し訳なさそうに言うと、微笑ましい笑顔で答えた。


「いい子達ね。手伝うことはそんなにないけどよかったら中でゆっくり待っててあげて下さい。私、かずの親戚の和子と言います。それに今日は貸し切りですし、貴女方が来るのは聞いてますから」

「そうなんですね、先輩は他に何言ってましたか?」

「うーん、あ!『多分少し早めに来るかもしれないからゆっくりしていてくれ』って言ってたわね」


 さすが、あの人らしいな。


 私達の行動パターンをしっかり読んでいたようで、分かっていてもやられるとやっぱり悔しいものがあるのだ。


「もし、なにかあれば言って下さい。みんなを呼んできますね」


 みんなの下に戻り、再度店内に入った。


 全員が店内に入ると、最初に声を出したのはかおりだった。


「なんか、先輩からは居酒屋って聞いたけど全然そんな感じがしないね」

「ありがとうございます。もともとは屋台でやきとり屋をやっていたので」

「この間、下見で通ったんですが美味しそうな匂いしてました」


 下見で通ってなかったら多分………買い食いを実行していたであろうから、私としては今日が別な意味でも楽しみだった。


 女の子だって、美味しいものには目が無いのよね。


「あら、そうだったの?かずも一緒?」

「はい、ここの場所を確認するためにみんなで」

「全く、あの子は。それなら一本くらいは出すのに」

「あ、違うんです。偶然を装って通らないといけなかったので」

「もしかして、ひとみちゃんもいたの?」

「はい、なので先輩はひとみに知れない為に素通りしたんです」

「そうだったのね。まぁ、あの子はそんなことする子じゃないのは分かってるけどね」

「先輩はいつでも私達のことを気に掛けてくれますので」

「そうしたら、仕込みついでにやきとりを食べて待っててくださいね」

「「「「ありがとうございます」」」」


 そう言って奥の間に通されてると、もう準備が出来ていたのだ。


 私達は和子さんの印象について各々話していた。


「先輩の親戚だけあって雰囲気が似てるのね」

「そうなの、先輩をさらに柔らかくしたような感じで」

「分かる!先輩のお母さんそうなのかな?」

「そんな気がするけど、お母さん自体が先輩っぽいかも」


 そんな他愛もない話をしてると『はい、おまたせしました』と後ろから声が掛かったので私は皿を受け取った。


「なんか、いつも食べてるやきとりとは違う感じがする」

「そう言ってもらえると商売冥利に尽きますね。冷めないうちにどうぞ」

「「「「いただきまーす」」」」


 食べた瞬間に分かったのは、私がよく食べるやきとりとは何から何まで違うということ。


 もう味も食感も桁違いだった。


 それは私だけではなくみんなも同じ思いだったようで。


「本当に美味しい。ふっくらしてて食べ応えがあるのに何本もいけそう」

「こんなに美味しいのを知っちゃったら買い食いしちゃいそう」

「もう、秀子ったら。あー、それもいいかもね」

「その内、私達のことを『やきとり女子』とか言われそう」


 本当に近々そうなりそうな気がしてならないと思っているとドアが開いた。


「あ、洋太」

「秀子。っていうかみんないるのか、すいません、俺達」

「はい、聞いてますよ。どうぞ奥の方へ」

「「「「「失礼します」」」」」


 どうやら、松木先輩が先導して連れて来たようで、私達側は全員揃った。


「なんか、小料理店みたいな佇まいだな」

「ああ、ここが居酒屋って言われても違うって言ってしまいそうだ」


 惠先輩と洋太がそんなことを言っていたが、私達も同じことを言ってるので、本当にそう感じるのであろう。


 和子さんに言われて洋太たちが奥の間にやってきた。


「秀子達はいつ来たんだ?」

「来たのは20分くらい前だと思うよ。何もしないも失礼だから手伝おうと思って早めに来たの」

「そうだったのか。もう食べてるのか?」

「いいでしょう~。美味しかったよ」

「もうちょっと早く来ればよかったな」

「大丈夫ですよ、今準備しますから」

「お気遣いすいません。それではお願いできますか?」

「はい、少々お待ちくださいね」


 和子さんが焼き場に向かうと洋太が不思議な顔をしていた。珍しいんだけどその顔を見るの。一体どうしたのよ?


 私は見事なアホ顔になってる洋太に声を掛けた。


「洋太、凄い不思議な顔をしてるけどどうしたの?」

「あ、いや。なんか一彦と話してるような感じでしてさ」

「あー、それね。私達もさっきまで同じ話をしてたわ」

「そうなのか、俺だけじゃなかったのか。一瞬、戸惑ったわ」

「その気持ちはここにいる全員理解してるから」


 焼き場から和子さんが洋太たちのやきとりを持ってきてくれて、洋太たちも食べると『なんでこんな柔らかいんだ』と舌鼓を打っていた。


「俺、やきとり食べて美味しいって思ったの初めてかも」

「他のやきとりを食べる気が無くなるなこれは」

「あらあら、皆さん。お口が上手ですね」

「いいえ、そんなことないです。ずっと食べていたいって思うやきとりはここが初めてです」

「ありがとうございます。お酒はダメですけど食べに来られるならいつでも歓迎しますから」

「ありがとうございます、今後お世話になるかもしれません」

「はい、ぜひお待ちしておりますね。あとは、かずの家族だけね」


 まるでタイミングを計ったようにまたもやドアが開くと、そこにいたのは双子?の男の子と女の子だった。


「「和子おばさん、こんばんわ」」

「はい、いらっしゃい。輝、瞳。ケンちゃんとアキは?」

「ちゃんといますよ。それにお母さんと純たちを連れて来いって言ったのはおばさんでしょ?」

「だって、車が何台あっても仕方ないだろうに。息子の嫁の誕生日なんだから今日はくらいは諦めな」


 来たのは先輩の家族だけではなかった。


 どうして今日が貸し切りになったのか理解できた。


 ねぇ、この人数で祝ったらひとみの頭の中パニックになるんじゃないのこれ?


 先輩、サプライズの度合いが完全にぶっ飛んでますよ。


 私は知りませんからね……はぁ~


 すると、後ろにいた女性が声を上げた。


「あれ?かずは?」

「まだ来てないわよ。7時以降だって言ったでしょ、それよりも後輩たちが来てるんだからちゃんと挨拶くらいなさいよ。たみは直属の後輩なんだから」

「そうだった、すっかり忘れてた」

「全く。まぁ、あんた達からしたらかずは弟だから仕方ないか」


 3人の女性が私達の所までやってきた。


 弟?ってことは実のお姉さんなのかな?


 先輩からはそんな話は聞いたことない。


 ん?直属の後輩?どうゆうこと?


 ?マークばかりになるのは仕方ないのことで理解が追いつかない。


 思考が追いつかない中で、お姉さん3人が私達の所へとやってきて、自己紹介を始める。


「初めまして、和子の娘で長女の純です。弟がいつもお世話になってます」

「私は次女のたみと言います。あと、私はあの学校の一期生です」

「私は三女のひろです。かずとは一番仲がいいかもしれませんね」


 3人は和子さんの娘で、先ほどの『弟発言』は弟のようにかわいがっていたという意味だったようだ。


 三姉妹ならそうしたくなる気持ちは分からなくはない。


 って、たみさんってあの学校の一期生なの⁉︎世間ってせまーい。


 でも、一番気になったのは双子?の兄妹で妹がいるのは聞いてたけど弟は初耳だった。


「初めまして、一彦お兄ちゃんの妹の瞳と言います。お姉ちゃんの学校の人ですよね?」

「初めまして、兄貴の弟の輝です。兄貴がいつもお世話になってます」


 弟君は輝君っていうのね。


 悩んでいても埒が明かないので私は単刀直入で聞いた。


「二人は双子なの?」

「お姉さん、違います。僕の方が一つ上なんです」

「あ、そうだったんだ。ごめんね」

「いえ、母にも偶に言われますので大丈夫です」

「あはは~」

「笑うなよ、どうして俺ら双子に見られるんだ?」


 その疑問、私でも分かった。


 多分、身長だったり兄に対する言葉使いがまるで双子の兄にしてるように見えちゃんだよねこれが………


 輝君の言葉をスルーするかのように瞳ちゃんが私達に声を掛けてきた。


 瞳ちゃんってなんか違和感……ああ、この間のやり取りに違和感がようやく理解できた。


 うん、どっちかがあだ名にしないと色々と大変なことになるわこれ……


 だって、今の時点でごちゃってるし………


「あの、ケーキの件ありがとうございました。一個作るのに手間取ってしまったので、お姉ちゃんの友達が作ってくれるって聞いて助かりました」


 瞳ちゃんの問いに答えたのはアッコだった。


「いえいえ、私達もひとみの為に作りたかったので気にしないで。それよりも作ったケーキ見せてもらってもいい?」

「あ、はい。お姉ちゃんみたいに綺麗には出来なかったけどお姉ちゃんの為に作りました」


 先輩のお母さんであろう方が持っていた箱を瞳ちゃんが受け取り、私達の所に持ってきて開けると……


 そこには白く美しいショートホールが鎮座していた。


「綺麗、すごいよ。瞳ちゃんって中学生だよね?」

「はい、中学一年です」

「なのに、このクオリティーはひとみも嬉しいと思うよ」

「本当ですか!あの、出来たら先輩方のケーキって見せてもらえますか?」

「ええ、見せてくれたのに見せないのはフェアじゃないもの」


 アッコが冷蔵庫から4つのケーキを取り出すと瞳ちゃんは偉く驚いた顔をしていた。


「ケーキが4つも……もしかして、お姉さん方一人一人が作ったんですか!」

「ええ、みんなひとみと先輩に食べてもらいたくてね」

「お兄ちゃん?」

「実は、この4つのケーキにはひとみの誕生日もあるんだけど先輩への日頃の感謝と遅ればせながらの誕生日プレゼントなの」


 アッコは、瞳ちゃんに自分達の思いを込めたケーキの意味を伝えると。


「私のお兄ちゃんって……何者なの?」


 瞳ちゃんの砕けたような言い方に私達はズッコケそうになってしまった。


「あのー、お兄ちゃんに対してその言い方はどうかと」

「だって、今までのお兄ちゃんは……あれ?前のお兄ちゃんってどんなだっけ?」

「あの~、瞳ちゃん?」

「瞳、かずは変わったんじゃないのよ。もともと、そうゆう子なの」


 パニックになっていた瞳ちゃんを宥めるかのように優しく諭す人がそこにはいた。


「娘が変なこと言ってすいません。初めまして、一彦の母です」

「は、初めまして、先輩にはいつもお世話になりっぱなしで。私、荒本秀子って言います」

「あなたがかずとひーちゃんを繋げてくれたキューピットさんね。ありがとう」

「い、いえ。私はあの2人が恋人同士になってくれたらと思ったので」

「あのメールにはびっくりしたでしょう?」

「はい、夜じゃなかったら大声で叫んでいました」


 え、なんだろう?この話やすい雰囲気。


 すると、この疑問に声を発したのは唯先輩だった。


「なんだろう、この雰囲気がまるでしむーと話してるみたいで初めて会うのに何度も会ってる感じ。すいません、挨拶が遅れました。志村君の先輩の中本です」

「同じく、北山と言います。今日はありがとうございます」


 この後、それぞれが自己紹介をして当事者が来るまでは先輩やひとみの話にみんなで花を咲かせていた。

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