<閑話>根掘り葉掘り

 <秀子side>


 先輩とひとみに関しての会話となれば、思い出せば色々な事があるので、話が全くと言っていいほど尽きないと思う。


 最初に聞いてきたのは瞳ちゃんだった。


 うん、そんな気がしたよ。


「ねぇねぇ、学校での二人ってどんな感じなんですか?」

「うーん、ざっくり言うとね二人のそばにいると糖分過剰状態になるの。まるで砂糖工場にいるような感じ?」

「秀子、それはあまりにも雑過ぎるし説明になってない。それだと、一彦が松木にしてるのと一緒だ」

「洋太、今の流れで俺のディスり必要だったのか?」

「いや、ディスった覚えはないんだがな。だから、ちゃんと教えてあげろ」

「そうね。茶化してごめんね、一応本当なんだけどね。どんな感じかって言われたらお似合いの恋人同士で理想のおしどり夫婦だと思うよ」

「ずっと、べったりってことですか?」

「うん、でもね普通なら暑苦しいとか思ったりするんだけど、あの二人だと何故かそう思えないの。見てると不思議と癒されるのよ」


 実際、その通りで生徒会は勿論のことで二人のクラスでも軽い文句だったり、揶揄いはあれど非難する者は誰もいない。


 それは、遠回しに二人が羨ましいということでもある。


 だって、私達だって同じことをしようと思っても恥ずかしさが前に出てしまう。


 けども、あの二人はそれすらも感じていないのはそれだけお互いを好きを超えて愛し合っているから。


 それを決定づけたのは、言うまでもなく文化祭だろう。


 あれを見れば二人を非難することなんて出来る訳もない。


 それが出来るのは、今まで恋愛をしたことがないか、人の心が分からない人くらいだろうね。


 大袈裟だと思うが、今の二人に危害を加える者がいれば私達は当然だが、二人を知ってる人間だって全力で排除だってするかもしれない。


 それくらい祝福されている。


「今日の事だって、全部先輩が一人で考えた。私が彼氏の為って思ってもこんなことは出来ないの。先輩は本当に素晴らしい人なの」

「全部って!?だって、みんなでケーキだって……」

「私達は、先輩と瞳ちゃんの負担を少しでも減らすために手伝っただけ。じゃないと先輩はまた無理して倒れてもらっては困るから。ひとみが発狂するのは勿論だけど私達もそれは見たくないから……」

「そういえば、この間珍しく寝込んだけどそれも?」

「ひとみの為なら自分の事なんてどうでもいいくらいに全力だから、知らぬ間に疲れを溜めてた。ひとみは喝を入れないといけないくらいにパニックになるし、私達だって戦慄が走った。それくらい先輩はここにいる人たちは大切に思ってる」

「ここにいる人たちはお兄ちゃんを大切に思ってくれているんですか?」


 瞳ちゃんの問いに答えたのは洋太だった。


「そもそも、今日だって一彦が大切だって思ってくれた人達を集めたんだ、厳選してね。本当ならもっとたくさんの友人にこの光景を見てもらいたいって思ってるはずだ。二人の友人にこの光景を非難する奴はいないから」


 それは、ここにいるみんなが分かってること。


「それに、あいつは俺らに居場所をくれたなんて言ってるけど俺らだって志村のおかげで居場所を手に入れたんだ。あいつは、俺らを奥さんの次に大事に思ってくれている」


 洋太の返答に松木先輩もそれに乗るかのように瞳ちゃんに答え、私が話をまとめる。


「私達は、先輩の考えを読もうなんてそんな畏れ多いことは出来ないから、先輩とひとみにの為に出来ることはしたいと思ってるの。先輩の考えを読んだとしてもそれすらも予測して斜め上の考えをしてくる。もう白旗を上げるしかないの」

「でもでも、家じゃそんなこと……あ……」


 瞳ちゃんはなにか思い当たる節があるようだが私は話を続ける。


「多分、先輩が家でそれを出さないのはずっと考えてるから。バイトとひとみと一緒にいる時以外は、そんなことばかり考えてるの」

「そうだな、そうじゃなきゃあの言葉から今まで色々出てこないもんな」

「もしかしたら、そんなことも考えてないかもしれないけど多少は考えているはず」

「え?色々って。あの言葉ってスピーチのことですか?」

「ひとみが聞かせたのね。本当に旦那様が好き好きなんだから」


 正直、色々と言っても本当にありすぎてどこから答えたらいいのか困っている。


 話し出したら夜中になるんじゃないかって思うくらいに沢山あるから。


 それだけ先輩にはしてもらったからね。


 いつになったら全部返すことが出来るのか……返したらまた返してくる。


 きっと、その時は永遠に来ないと思った。


 ああ、そうか。これもあの人の言う『切磋琢磨』ってことか……思い違いをしていた。


 あれの本当の意味が分かった気がする。あの人が言いたいのは『恋愛』ではなく『関係』なのだと。


 でも、それは先輩にしか解らない。


 だから私は言葉を紡ぐ。


「言葉、行動、他のみんなはどう思ってるか分からないけど私は先輩からそれを教わった。先輩から受け取った”バトン”を次に受け継ぐために」

「あの言葉だけは本当にずるいな思った。あんなに心に響いたのは初めてだった」

「私もそう、まさか先輩に泣きつくなんて思いもしなかった。あの場で聞いてたらどうなっていたんだろうって思う」

「「「ちょ、ちょっとなにそれ、初耳なんですけど!?」」」

「でも、それは先輩がひとみに言ってるから知ってるわよ?」

「あー、びっくりしたー。喧嘩の前に修羅場かと思った」

「今日の流れでそれは困るわね……」


 私達は、あの言葉に対してそれぞれの思いを吐露していた。


 美優の発言には驚いたけど、先輩のことだからいち早く伝えたのだろうなっていうのは簡単に想像できる。


 その時の顔でさえも……ちょっと見てみたかったな……そうすれば弄れるのに……ちぇ。


「俺らは行動だな。文化祭の時もそうだし、今だって一彦が麻雀部を作ってくれたから俺らはあの場所で楽しくやらせてもらってるから」

「文化祭の時にいきなりビラを渡されて並ぶお客に渡せとか言うし、ビラ見たら俺らのクラスじゃなくて奥さんのクラスだったし」

「私もあの時はびっくりしましたよ。私も行動ですね、ひとみの為に私を生徒会に入れちゃうんですもんね」

「私達も行動だね。藤ちゃんを戻すためにあんな行動するなんて思わなかったから」

「あんな強気な志村は初めて見たからな、手助けだってしたくなる」


 洋太や先輩達は行動の方に先輩のベクトルが向いているらしいが、洋太と松木先輩はそうだろう。


 先輩が生徒会室で必要以上にイチャイチャしてるのは、きっと洋太の為かもって思ったりもした。


 二人がイチャイチャすれば、私達がしても変に思われないからじゃないかと思っているけど、それは違うなんて言うんだろう。


 きっと、偶然の産物なんだねきっと。


 口に出すと先輩は色々とやってくれてるなって思ってしまったのだった。


「結局、私達は先輩に助けられているの。だから、今日はひとみの誕生日を祝うのと先輩に日ごろの感謝を込めてケーキを作りたいって思ったのよ」

「そうだったんですね、色々と聞かせてもらってありがとうございます。お兄ちゃんを慕ってくれて、これからもお兄ちゃんのことお願いします」

「こちらこそ。ひとみが可愛いがる気持ちがわかる気がするわ」

「そうね、お目当てのお姉ちゃんが来るまで別なお姉ちゃんたちがお相手しようか」

「え?ちょ、ちょっと。うきゃ~~」


 二人が来るまで我慢してね。ひとみの宝物の1つだから大切にね。


「全く、秀子の奴……まぁ、分かってるから大丈夫だと思うが」

「今の生徒会ってこんな感じらしいな」

「そうですね、でも一彦のおかげで俺らも居心地はいいです」


 洋太が北山先輩と話していると唯先輩と目が偶然会ったので。


「唯先輩、よかったら妹ちゃんを一緒に可愛がりません?」

「いいの?むー、ちょっと行ってくるねー」

「いいけど、やり過ぎて志村に何言われても知らないからな。いや、この場合は藤木になるのか……」

「あ、うん。気を付ける。藤ちゃんの大事な宝物だからね」


 そう言って、先輩が私達の所へ来ると。


「え、またお姉ちゃんが増えた!?お兄ちゃん、早く来てー」


 妹ちゃんの遠吠えは兄に届くことはあるのだろうか……少しだけ我慢してね。

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