本当のサプライズ
店員さんとコラボ?したひとみのコーディネートを大層、気に入ってくれたひとみはこれまでにないほどご機嫌だった。
今回、俺が目を惹かれたのは真ん中に大きなリボンが付いたネイビーのブラウスに膝と同じくらいのブラウンのチェック柄のスカートだった。
店員さんからは白のレーススカートもお勧めされたが、俺は自分がいいなって思った方をチョイスしたが、実はこれで終わりではないのだ。
これは、ひとみが試着室にいる間に俺は店員さんと話して今のコーディネートに合うコートをお願いした。あと、先ほど店員さんが勧めてくれたスカートも一緒に。
それと、ひとみのトレードマークの象徴にもなるあれも。
「はい、では全部で〇〇〇〇〇円になりますね」
「これでお願いします」
「はい、丁度お預かりします。それにしても彼氏さん高校生ですよね?」
「はい、そうです」
「今時、彼女さんにこれだけ尽くせる彼氏さんはいませんよ」
「彼女が自分に沢山してくれているのでお返しをしてるだけですよ」
「謙虚なんですね。サプライズ、喜んでくれるといいですね」
「そう願いたいです。色々とありがとうございました」
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
袋を持ってひとみの所に向かうと、そわそわしていた。
言ったはいいけど、色々と気にしてるんだろうけど、そんなのはいらぬ心配なのだ。
「お待たせ、改めて誕生日おめでとう」
そう言って、袋をひとみに手渡すと。
「ありがとう一彦。大切に着るからね♪」
「これだけ喜んでくれたなら選んだ甲斐があるよ」
「でも、値段見てなかったけど大丈夫だったの?」
「大丈夫だよ、試着してる間も他の見たけど意外と普通な金額だったから」
「なら、いいけど」
うーん、少し言い方をミスったな……
「そんな顔しないでくれ。俺はひとみにあれを着て欲しかったんだ、俺の自己満足なんだよ」
「ごめんね、そうゆうことじゃないの。ただね、どう表現したらいいか分からなくて」
ああ、そうか。そうだよな……失念してた。
俺もそうだけど、ひとみもこんな経験をしたことが無いから戸惑っているってことか。
自分の自己満足を優先しすぎたな……
それなら、俺がひとみに掛けてあげられる言葉なんて一つしかないよな。
「こうゆう時はさっきみたいに素直に喜んでくれれば俺はそれで心が満たされるんだ。ひとみの最高の笑顔を見れるんだから。だからさ、今日だけは俺の思いを素直に受け取って欲しいんだ、ダメか?」
「そうだよね、一彦がこんなに私の為にしてくれているのに私が沈んでいたら意味無いよね。分かった、今日だけは遠慮はしない」
「ああ、それでいいんだ。さぁ、まだ回る所は沢山あるから行こうか」
「はい♪」
あれが届いた時には、泣いてる姿しか想像できなくなってきたな……まぁ、嬉し涙なら沢山流してもらいましょうかね。この後もな。
因みに、これを機にひとみの服を買う時は大概、この店の系列店舗になっていたのに気付いたのは後々の事である。
誕生日プレゼントと言えど、ずっと持たせるのも嫌なので俺はひとみから袋を奪い取ると『私が持つの~』と子供っぽくなっていたが俺は強引に腕に抱きつかせると大人しくしがみついてきたので、そのまま歩きだした。
その後は、ジグソーパズルの店で妹と作るパズルを買ったり、自分用のパズルも買っていた。他にも俺が気になった所も一緒に入ってくれて色々と聞いてくれたりして心が癒される時間だった。
お互いに気になる所を散策しているとひとみからこんな質問が飛んできた。
「今日の夜ってどうするの?ご飯はここで食べていくんだよね?」
あ、夕食のことをすっかり忘れていた。
うーん、どうしようかな……ここで下手な嘘を付けばこの後の事まで言わなければならないけど、夕食はちゃんと食べればいいか。
どうせ、あそこに行けばまともに食う暇すら無いだろうから。
頭の中で全て自己完結をして、俺はひとみにこう告げた。
「実は、ひとみにもう一つ俺から本当のプレゼントがあるんだ。それはここからまた移動することになるんだけどな。だから、夕食は少し早いけどここで済ませるつもりだよ」
「どこに行くの?あそこ?」
「それは明日ね。場所は秘密じゃダメか?」
「一彦がそうゆういうってことは私が想像してる以上のことを考えているってことなんだよね」
「かもな、絶対に損はさせないから今だけは俺の言う通りでいいか?」
「いいもなにも、私は何があっても一彦について行くだけだよ♪」
今日は、何回心を打ち抜かれれば気が済むのか……しかも、無自覚でそれをこなしてるのが怖いくらいだよ。
本当は、すぐにもその不安を取り除いてあげたいけどもう少しだけ待ってくれ。
夕食はモール内で済ませて、川崎まで戻ってくると、俺は乗り換えの駅にはいかずにタクシー乗り場へと足を向けた。
「か、一彦?タクシーで行くところなの?」
「時間的にも車じゃないと見えないからね。かと言って俺が運転してると一緒に見ることは出来ないからさ」
「そうなんだ、なんだろう?今日の一彦の予想が掴めない」
「そうそう簡単に掴ませるわけにはいかないから。さぁ、乗ろうか。あ、その前に」
俺は、ひとみが乗った後にあるものをひとみに手渡した。
「これって、アイマスクと耳栓だよね?」
「驚かせたいから付けてくれると嬉しいかな。嫌だったら諦める」
「ううん、私は一彦を信じてるから大丈夫だよ。その代わり、手だけはちゃんと握っていてね」
「それは、当然だろう。絶対に離さないから安心しろ」
俺は、念には念を入れよってことで運転手の近くで目的地を言うと車が発信する。
これからどこへ向かうのか、聴覚と視覚を遮られているので不安なのか手を握ってくるときの力がいつもよりも強く感じた。
でも、それでも不安は消えなそうな気がしたから、更に安心させる手を打つ。
「大丈夫だ、着くまでこうしてるから」
「うん、ありがとう。耳元であなたの声が聞こえるだけで安心する♪」
「あと少しで着くから」
片方の耳栓を外して、俺がちゃんと隣にいることを実感させる。
ごめんな、あと少しだから……そうしたら全てから解放してあげるからな。
川崎から車を走らせること15分、ようやく車が止まる。
俺は料金を支払い、荷物を持ってひとみの手を優しく握って手引きをしてひとみにこう伝える。
「ほんの少しだけ、手を離すけど大丈夫だから」
「うん……でも、少し怖い」
そうだよな、そんな状態で迎えられても不安が残ることはしたくない。
俺は、当初の予定を少しだけ変更することに決めた。
「なら、手を絶対に離さないでな」
「うん、これなら安心できる」
再度、耳栓を付けてもらって段差が殆どない所に誘導しながら店に着く。
焦る自分を精一杯抑えて、扉をそっと開けると俺の思っていた光景が目に映る。
周りを見渡して、頷くと俺は中に入り、ひとみを所定の位置に立たせると、俺は耳栓を外して言いたかった言葉を伝える。
これが、俺が出来る最大のプレゼント。
「お待たせひとみ。これが俺の本当の誕生日プレゼントだ。受け取ってくれ」
俺は後ろからひとみのアイマスクをはずした。その瞬間……
「「「「「誕生日おめでとうーーーーーー」」」」」
10数人分のクラッカーが盛大に店内に鳴り響くと、ひとみは何が何だか分からない状況に陥っていた。
「え?何………これ。どうゆうこと?」
「ひとみ、これが俺の用意したプレゼントだよ」
「ど、どうして?なんでみんないるの?しかも制服で!一彦の家族まで」
まぁ、目を開けたらこの光景な訳だから混乱するもの当然だろうね。
そもそも平気な顔されたら俺が辛いし……でも、よかった。
不安を打ち消すかのように、秀子が明るく声で俺に言ってくる。
「サプライズパーティー、大成功ですね」
「ああ、みんな。今日まで協力してくれてありがとう」
「一彦?も、もしかして、これって?」
「そうだよ、俺が前にみんなと相談してお願いしたんだ。思い出に残るバースデーにしたいと思ってさ」
「………」
「もしかして、嫌だったか?」
あれ?もしかして、失敗したのか……どうしよう……
すると、ひとみが急に俺の方に振り向いて胸に飛び込んできた。
「こ、こんなことされて嫌な訳ないでしょ!あなたは私にどれだけ幸せをくれれば気が済むの。う、うあああああああああん」
予想以上に泣いてしまい、宥めるように髪を撫でつつ俺はひとみに。
「そんなの決まってるだろ、ひとみが俺のそばにいてくれる限りは出来る限りの幸せを送るつもりだからな。やっぱり泣いたか」
「そ、それじゃ、私が勝つ機会が無いよ……こんなことされて泣かない訳ない!」
そうそう、主導権を握らせるなんてさせないからな。
「悪いけど、そう簡単には勝たせる気は無いからな。この思いだけは絶対に負ける訳にはいかないから。ほら、主役がいつまでも縮こまってたら意味がないぞ」
発破を掛けるように言うと、口を少し尖らせて。
「明日、覚えていてよね」
ひとみに上目遣いで言われても可愛いくらいのレベルしかないので恐怖は一切ない。
ひとみは、奥の間に行くとみんなに囲まれたのを見て、俺は適当な所に腰を掛けたのは今日だけ貸し切りなのでどこに座っても問題がないから。
落ち着いたところに、3人の女性がオレンジジュースと共にやってきた。
「かず、お疲れ様。いつ間に格好いいこと出来る男の子になったのよ」
「3人揃うなんて正月くらいなのに。まさかとは思うけど……」
「そのまさか、かずの彼女がどんな子か見てみたくてね」
「聞くところによると、文化祭で色々とやったらしいわね。私の母校で」
3者3様の言い分がそれぞれに温度差があるのだが……ちょっと待て、今1人不穏なこと言ってなかったか?
母校?ま、まさか……
「あれ、知らなかった?私、あの学校の1期生なのよ」
「嘘でしょ!?だって、たみ姉頭いいじゃんよ」
「当初はそれなりに高かったのよ。それが近年、県立最下位だもんね」
まさか、身近に卒業生がいるなんて思いもしないわ。しかも、1期生って!?
俺は、この後に拷問に近い質問攻めに食らうことになるとは思いもしなかったのだ。
3姉妹の猛攻を何とかしのぎ、俺はみんなの下へと向かった。
すると、最初に声を掛けてくれたのはやっぱりあの人だった、当然だよね。
「しむー、お疲れ様。今日は呼んでくれてありがとう」
「志村、会うたびに男らしくなっていくな。生徒会に入れて正解だった」
「唯先輩、北山先輩。今日は来ていただいてありがとうございます。先輩方がいなければ俺らはいませんから」
「もう、堅苦しいのは無しだよ。落ち着いたらこっちにおいで」
「はい、では少しばかり失礼しますね」
俺は、先輩達の席を離れて隣の席に行くと、後輩と同級生で埋まっていた。
妹は後輩連中に揉まれてるし、弟は同級生に同じような事をされているのを見て、笑いを堪えるのが精一杯だった。
それを見てる最中に秀子から声が掛かる。
「せんぱーい、そろそろやりませんか?」
「ああ、そうだな。瞳、アッコ頼む」
「「「「「はーい」」」」」
ん?なんか返事が5つ聞こえた気がするんだけど……あれ、なんでみんな向こうに行っちゃうのかな?訳が分からんのだが……あれれ?これってもしかして……
あいつら、まさか俺のサプライズを利用してなにかするつもりか?
「ひとみ、先輩、少しだけ目を瞑ってもらえますか?」
「ああ」「ええ」
俺らは、秀子に言われて目を瞑った。
一体、何をするつもりなんだろうと思っていると、秀子が代表するらしい。
「ひとみ、誕生日おめでとう。先輩、遅れましたが誕生日おめでとうございます。これは私達の日頃の感謝とプレゼントです。受け取ってください」
『目を開けて下さい』と言われて俺らは、目を開けるとそこには俺が予想していた光景を遥かに超える光景が映っていた。
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