誕生日
昨夜はお互いに頑張ってしまったので起きるのが少しだけ億劫になってしまった。
寝ざめだけなら最高だった。
その理由は……奥様の可愛い寝顔があるから。
朝にその顔が見れるだけで一日を乗り切れる元気を貰える気がした。いや、貰える。
そんな、まだ夢の中にいるひとみの髪を優しく梳きながらゆっくりしていると、ひとみが目を覚ます。
「おはよう、ひとみ。昨日はありがとう」
「おはようございます、あなた。妻として当然の役目ですから♪チュ……」
「やばい、昨日の余韻が残っててキスだけ壊れそう……」
「ふふ、あなた?何したいか言って」
「一回だけ、お願いできるか?」
朝から俺らは、完全にタガが外れてしまいお互いを求めあう結果になってしまったが、後悔とか一切していない。
昨日と違って、素直に求めたのは下に誰も居ないのが分かっていたからで、俺の欲望を抑えることが出来なかった。
だって、もし近いうちに一緒にいられるようになれば毎日こうゆうことになりそうだから。
っていうか、俺が本気で抑えないと毎日が大変なことになる……よな。これ……
シャワーを浴びて、汗を洗い流すとそれぞれが制服に着替える。
「この時間に制服に着替えるなんて不思議な感じだね♪」
ひとみからこの言葉が出るのは当然であった。
なんせ、今の時刻は10時半でこの時間に制服に着替えることなんて今の俺らにはあり得ないことだから、自然とそんなことが漏れてしまうのだ。
「確かに着たことも脱いだことも脱がしたことも無いからな」
「あなた、最後のは余計です」
「ごめん、少しだけ調子に乗った」
「ううん、怒ってないからね。意地悪だなーって思ったのはあるけどね♪」
なんか、もう否定すらしてないのが凄いもんな……恋する乙女もとい奥様は強いよね本当に。
どうやら、今日が本当に楽しみなようだ。
いつもよりも断然テンションが高いのが見て分かるのを俺は安堵したが、本当の闘い?は夕方だ。
昼の間に全ての体力を使い切る訳にはいかないのでペース配分をしっかりとしないと、みんなの苦労も水の泡になり兼ねないから。
俺らの誕生日の時は、大型のショッピングモールに出向いて過ごすって言うのが大まかな決まりになっていた。
今年に限っては恋人同士で過ごすことにしているので名前呼びになり、それが心地よくてたまにはこうゆう変化もありだなって思う所であった。
と言っても、変わるのは俺の呼び名くらいなんだけどね。
俺のひとみへの愛情に関しては絶対に変わることは無い。
この先もずっと……欲を言えば永遠にこの愛情が消えることは無いと。
もし、他に候補があればそこにするのだが今回は無かったので、俺の時とは違う所のショッピングモールにすることにしたのだ。
俺は、ひとみに今日のプランを説明することにした。
昨日の内に説明しようと思ったのだが愛し合ってしまったので話す時間すらなく睡魔に襲われたのだった。
「ひとみ、今日なんだけど着いたら映画観てもいいか?」
「いいよ、それで何の映画観たいの?」
「今話題のパイレーツ・オブ・カリビアンなんだけどいいか?」
「ほんと!私も観たかったの♪」
「なら良かった。本当なら年相応の映画の方がいいかなって思ったけど、やっぱり自分が観たい物がいいかなって」
「ううん、私達は私達のやり方でいいの。これを機に毎年、新作をあなたと一緒に観れるんだもん。ありがとう♪」
その、太陽にも負けない光り輝く最高の笑顔があるだけで、とてつもなく幸せな気持ちになっていき、胸が熱くなる。
ということで、着いて最初に向かう所はモールの最上階にある映画館である。
上映時間を確認した後に昼食を済ませようということになって、チケットを先に購入して下に降りた。
昼ごはんを散策中にひとみから問いかけがきたもんだから、俺はこんなことを言ってしまった。
「一彦は、何が食べたい?」
「ひとみ」
「も、もうそれは今言っちゃダメ~。意地悪なんだから」
「ごめんごめん、そうだな~。あ、ここなんてどう?」
「また、私の為とか思ってない?」
「それは当然思っているけど、俺も食べたい気分なのは本当だよ」
「ありがとう、それじゃ行こう♪」
「ああ」
俺らが選んだ昼食とは、色んな種類があるスパゲッティ屋で二つのパスタをシェアして有意義な時間を過ごしたのだった。
休日ということもあり、少しばかり混んでいたものあり、食べ終わる頃には上映時間も迫っていたので、早足で映画館に向かう。
映画館ではお馴染みのあれを買っておき、指定された席に着席をした。
今回は、運よくど真ん中に席が取れたので大画面を独り占めをしている気分にもなれた。
すると、ひとみがこんなことを言ってきた。
「ねぇ、一彦?これって、字幕ないけどいいの?」
「迷ったけど、無い方がちゃんと物語を楽しめそうだったからさ。聞くのは英語でも嫌じゃないんだ」
「そうなんだ、一彦が英語嫌いなのは分かってたけどそこまでは読めなかった」
「うーん、これもひとみのおかげなんだけどな。気づかない?」
「ふぇ?ど、どうして?私はこれに限っては本当に覚えがないよ?」
「これは間接的にひとみが関わってるんだよ。いや、十分過ぎるほど直接だな。俺が一番最初にひとみにお願いしたことはなんだか覚えてるか?」
今の俺は書いたり、読んだりするのは嫌いのままではあるものの、聞くとか観るということでは嫌いではなく寧ろ、好きな部類。
それをひとみが教えてくれた。
「一番最初……一番……あ、もしかしてCDのこと?」
「正解。初めて洋楽を楽しめるようになったのはひとみのカラオケを聴いてCDを借りてから変わり始めたんだよ。そうしたら、聞いたりとか観たりするのは苦にすら感じなくなっていたんだ」
「昨日から一彦の言葉が全部、誕生日プレゼントに思えてくる」
「おいおい、こんなのプレゼントなんかに入らないからな」
「それを決めるのは私だもん♪本当に両手に持ちきれないほどのプレゼントもらえそうだね、今日は♪」
言い終えるとほぼ同時に上映のブザーが鳴り響き、その間は画面に釘付けになっていたが時折、横目でひとみを顔を見ると無邪気な子供のような顔をしていた。
2時間半の上映を終えて、ショッピングモールをぶらぶらしながら俺らは映画の感想を言い合っていた。
「あのクオリティーは凄かったな。目が離す暇すらなかった」
「最後の方なんて迫って来て飛び出て来るんじゃないかって思ったもん」
「新作が出来たらまた観に行こうな」
「うん、絶対に行こうね。約束だよ♪」
俺らの中でまた一つ、大事な約束事が増える。
例え、小さな約束事でも大切な絆の一つで俺らはそれを大事にしているからこそ、余計に離れたくないって思ってしまうのかも知れない。
だが、俺はそんな小さな絆でもずっと紡いでいたいと感じていた。
モール内をゆっくり歩いている最中にひとみが気になった店があったらしく、俺に『見てもいい?』って聞いて、俺も首を縦に振ってその店に入ることにした。
「ごめんね、私の興味本位だから一彦はちょっと辛いかも」
「ひとみの誕生日なんだから俺のことは気にしなくてもいいから。ひとみの気の済むまでゆっくり見ておいで」
ひとみが店内を物色してる間に俺は、店内のある商品に目を惹かれる。
それは、ひとみのトレードマークをより引き立てるのは絶好の物で、ひとみに気づかれないようにささっとお会計を済ませて鞄に入れた。
その後は、何もなかったように店内を回っていてひとみが俺に声を掛けた。
「一彦、おまたせ♪暇じゃなかった?」
「いや、全然暇どころかひとみを笑顔を写真にも納めていたからな」
「え、恥ずかしいよ~」
「どうして?良い顔してたよ、大丈夫だから」
「本当に意地悪な彼氏なんだから、でも大好き♪」
彼氏である俺がひとみの言動にドキッて来るのは当然だが、こればかりは誰がどう見ても惚気全開なのが良く分かる。
あー、秀子達はこれ毎日食らっていたってことか……そりゃ『糖分過剰摂取』って言われるわ。
けど、俺らはそれを言われても止める気もないし、普段はそんなことを一切思っていないからこうゆうことを気にせずに出来るんだろうな……若さだよな完全に。
この写真を皮切りに他の人にお願いして撮ってもらったり、何かを背景にして1人づつ撮ったりと”今日”という日をとことん楽しんでいた。
そう思うと、俺の方が先に誕生日を迎えていてよかったなって思ってしまうのはどんなことでも、ひとみを最優先に考えているからだろう。
そんな中、俺は女性服の専門店で気になるコーディネートを見つけたのでひとみにお願いをして店に入ることにした。
「なにか見つけたの?」
「いや、この店はなんかひとみにピッタリ服が揃ってるなって思って」
「そうかな?私からしたらちょっと大人っぽい気がするけど」
相変わらず、ご自分の気高さを分かってないようで困った彼女様である。
その謙虚さに俺の心は持って行かれたんだけどね。
だから、ここは全力で俺がひとみを褒めるべきなんだと。
「ひとみは十分に大人っぽいよ。俺が毎日ドキドキするくらいなんだから」
「恥ずかしいからやめてよ~」
「俺は本当の事しか言ってないんだからどうにもならないだろうが」
「全く、私の彼氏さんは人をおだてるのが本当に上手いからズルいよね」
「誉め言葉として受け取っておくよ。あ、すいません」
俺は、店員さんを呼んで俺の趣旨を伝えることにした。
「はい、なんでございましょうか?」
「あの、彼女にこのコーディネートはどう思いますか?自分の中ではいいかなって思っているんですが」
「そうですね、確かにそのままでもよろしいかもしれません。もし、よろしければ私が見繕ってもよろしいでしょうか?彼氏さんの意向を汲んだ上でございますが」
「はい、それでお願いします。今より綺麗になったひとみを見せてくれ」
最近、見せることが無かった真っ赤な顔をしたひとみが店員さんに連れられて試着室に向かっていく。
俺は、ひとみが試着してる間に店員さんにある相談をしていた。
「あの、ここって服の配送って出来たりしますか?」
「はい、大丈夫ですよ。購入された服を配送ですか?」
「いえ、実はこれ以外に考えていまして。今のコーディネートに合うコートがあればと思いまして」
「あ、もしかしてサプライズプレゼントですか?」
「そんなところですね。それでお願いできますか?」
「かしこまりました。お会計はご一緒でよろしいですか?」
「お願いします」
ひとみが無事に着替えが終わったようで俺は試着室の所まで行き、カーテンを開けてそこにいたひとみは少女の心を持ったままに成長した、大人の女性のような風格の中に清楚感を醸し出していた。
俺は、あまりの神々しさに言葉を失ってしまった。
「か、一彦?ダメだった?」
「ダメどころじゃない、これ以上に無いってくらいに最高で誰も見せたくないくらいに綺麗で言葉が出なかった」
「あ、ありがとう。なんか汗が凄いけど」
「目の前に彼女が綺麗でいるもんだからドキドキが止まらないんだ」
「ふふ、食べたくなった?」
「本当に食い尽くしたいくらいに綺麗だよ、ひとみ」
「ねぇ、これおねだりしちゃダメ?」
「おねだり?今日はひとみの誕生日なんだ。おねだりなんて言うんじゃない」
「ごめん、ねぇ一彦。これ欲しい」
「すいません、これお願いします」
ちゃんと言い換えたひとみに俺は了承して、着替え直している間に俺は会計を済ませたのだった。あれも含めて。
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