君をもっと知りたい

 打ち上げの待ち合わせで遅刻者を待つこと10分、ようやく最後の一人がようやく姿を現した。


 焦ってる様だが俺から見たらいつも通りだった。

 

 魔人ブーこと松木である。


「すいません、バスが遅れちゃって」

「お前が遅れてバスに乗り遅れただけだろう」

「いや、時間通りに乗ったけど進まなかったんだよ」

「ああ、お前が重くてバスが動かなかったとか?」

「なわけあるか!」

「なら簡単に日頃の行いが悪いからだ」

「お前もどうせ俺の次くらいだろ?遅刻常習者だもんな~」


 まぁ、日ごろの俺を見ているあいつならそう言っても説得力はあるが、今日に限っては強力な援軍がいた。


 なんせ、学校に行くときは毎日遅刻という行為しているが、悪いとは一切思っていないでこれまた質が悪いのだが。


 この遅刻という行為がが卒業が近付くにつれて気づくと、ほぼゼロになっていたなんて誰が予測・予想できただろうか?


 どうでもいいことだが、当学校の登校日数は210日。


 俺の2年の時の遅刻回数は、190回という数字が通知表に表示されていた。要はほぼ毎日遅刻していることになるのだ。


 余談だったな、話を戻そうか。


 松木の言葉に小田さんのフォローが入る。


「志村先輩なら私が10分前に来た時にはひとみちゃんと一緒にいましたよ」

「マジで、嘘でしょ!」

「はい、聞いたら30分前に着いてたらしいです」

「あ、ありえない。遅刻常習者のはずなのに!」

「学校の遅刻なんて気にする理由ないけどな。今更だから」

「「気にしてください!!」」

「ごめんなさい……」


 呆然と立ち尽くす松木だった。


 俺にとって学校は通うだけの場所しか考えてないから仕方のないことですぐに治る訳でもない。


 そして、下級生2人に見事に叱られていて、今年の2年生はまったくもって情けない。


 反面教師にすらなってないのだ。


「あはは、しむーは尻に敷かれるタイプだね絶対に。将来が楽しみだね~」

「そうなるんですかね」

「で相手は、誰なのかな?藤ちゃん?小田ちゃん?」


 やっぱり、茶化しに来たよこの人。っていうかこの人以外にいねぇし!


 誰よりも1番に事柄を知ってるくせにこうゆうことするんだよな、まるで愉快犯。


 まるではなく紛れもなく愉快犯である。


 一体、どこに爆弾を持ってるのかな~。あ、本人だった。爆弾岩かい!


 そういうときに限って最初に飛んでるのは毒舌である。あるあるだよね……


「なんで私が志村先輩なんか尻に敷かないといけなんですか」

「私も別にそんなこと思ってません……し……」

「それにひとみちゃんは私の物なので先輩には渡しませんからね」


 うん、毒舌のオンパレードをありがとう。相変わらず、上級生?にも全く容赦ないし、しれっとそうゆうこと言うんだもんな小田さん。


 しかも、敵対対象が俺なんだもんな。何故によ?


 これがあの女の勘ってやつ?初めて実感したよ。


「馬鹿な事やってないで早くいきましょう。時間なくなりますよ~」


 小田さんが催促する。どうやら早く歌いたいらしい。意外だなー。


 全員揃ったところで移動し、商店街の大きなカラオケ店にやってきた。藤木さんのバイト先の目と鼻の先である。


 入る直前に梅山さんと偶然目が合ってしまい。


(よろしくね)と言われた気がした。いや口は動いていたので間違えなくその通りなのだろう。


 俺は、口よりも表情と仕草で表すことにしたので梅山さんに向かってグッとポーズをすると分かってくれたようで仕事に精を出していた。


 バイト先にいい先輩がいて藤木さんは良いよな。


 うちもいない訳ではないが、何故か自分よりも2周り以上の方々とは話が合うようで同年代は逆にあまり話さないし、そもそもいないのだ。


 日曜日で多少の混雑はあるもののそんなに待たずに入ることができた。


 歌自体は大好きなのだが、自分の声が好きじゃないせいでカラオケは好きじゃない。


 自他共に音痴の可能性がある為。はっきり言おう、音痴である!


 歌わないでいることは不可能で、それをすればあの人に何されるか想像するだけで恐ろしい。


 なので、仕方なくJ-POP系の曲を消化することにした。


 北山先輩は、V系中心なんだけど滅茶苦茶上手くてずっと聴いていたい感じだった。


 唯先輩も自分の声や周りと足並みそろえた曲目でやっぱ上手い。


 松木は、自分の自虐的な要素を取り入れた曲目。要は替え歌。うん、普通。


 小田さんは、吹奏楽部なこともあり上手かった。しかもアニメとV系って。


 藤木さんは、とある海外アーティストの曲を歌っていた。


 あまり洋楽は興味がなかったが藤木さんの歌ってるのを聞いて興味?というか藤木さんが知ってるから自分も知りたいんだって思った。


 俺と藤木さんの歌の趣向のそれなりに似たようなものがあったのは嬉しかった。


 やっぱり、そうゆうことなのかな?自分に自問自答する。でもやっぱり答えは出ない。


 今は、この場を全力で楽しむことにした。


 楽しい時間もそろそろ終わりが近付き、明日からまた学校があるため、各自解散となった。


 俺は藤木さんと途中まで一緒に帰っていた。


 『よろしくね』って言われてしまった以上は、彼女を1人で返すのは梅山さんのお願いを無視するようなものだから。


 けど、本当にそれだけなのか?


 俺が彼女と少しでも一緒に時間を過ごしたいからじゃないのか?


 義務感、建前、本音とどれが正解なのか?


 今の俺は、その考えすら放棄することにした。今考えても答えなんて出るわけじゃないから。


「そういえば、今日藤木さんが歌ってた曲良かったね」

「本当ですか!あの曲が一番好きなんですよ!」


 俺らは歩いて帰ってる途中で彼女が歌について話をしていた


 すると、彼女は俺が褒めたからなのか分からないがハイテンションで喜んでいた。


「えっと、あのアーティストなんだっけ?」

「パック・ストレート・ボーイズです」

「ありがとう、今度CD借りてみるよ」

「あ、CDならうちにありますから貸しましょうか?」

「本当に?明日には返せるからお借りしてもいいかな?」

「はい♪」


 そこから音楽の話で花を咲かせ、藤木さんの家まで着いたが最近、歩いて帰るのが苦にならなくなっていた。


 別に体力がついたわけじゃない、多少はついたかもしれないが一番の理由はそれじゃないのは明白だった。


「今取ってきますので待っててください」

「ゆっくりでいいからね」

「はい」


 そうして、家の中に入っていったが思いっきり急いでたな。


 少し、外で待っていると藤木さんのお母さんと弟の克彦君が帰ってきた。克彦君が俺を見かけると。


「あー、ねぇちゃんのかれしだー」

「こら、外でそうゆうことは言っちゃダメでしょ」


 藤木さんの家族にましてやこの間、初めて会ったばかりで彼氏扱いは心臓に悪い。嬉しさはあるけど。ん、嬉しさ?


 お母さんも注意してくれるのは嬉しいが、その言い方は家の中ならいいみたい感じになるのでやめてほしい。


 すると、CDを持った藤木さんが出てきた。


「先輩、すいませんお待たせして」

「大丈夫だよ、寧ろ、急かしてしてごめんね」


 2人して話していると、コホンとわざと咳をする人を見て藤木さんは慌てだした。


「おお、お母さん!?いつの間に帰ってきてたの!?」

「あなたが出てくる少し前よ」

「ってことは今の流れを」

「見ていたわよ、克彦と一緒に」

「………」


 うん、分かるよ。そんな場面見られたら誰だってそうなる。しかし、お母さんは変に茶化すことはしなかった。


 なんだろう、なんか不思議な感じがした。


 娘を攻めるわけでもなく、娘の意思を尊重するかのように。なので俺は今だけは黒子に徹しようと思った。


「大丈夫だよ、普通にご挨拶しただけだからさ」

「そ、そうですか」

「CDありがとう、また明日生徒会で」

「はい、また明日。送ってくれてありがとうございます」


 多分、家の中ではさっきのことについて色々と聞かれているのだろうと思うと申し訳ない気持ちになる。


 藤木さんがあたふたしてるの簡単に想像できて笑ってしまう。


 笑ったら絶対怒るよな。


 明日、聞いてみようかなって密かに思う。


 俺はそのまま歩いて帰ってる途中でふと思う、俺と彼女は似ているからこそ感じるものがあった。


 藤木さんはきっと自分と家の両方に何かを抱えてる気がした。ただ、抱えてるものを安易に聞き出すのはアンフェアで、まして俺と藤木さんの関係は単なる先輩と後輩でしかない。


 誰にだって一つや二つくらい言えない過去は必ず存在する。


 俺にも他に言えない過去はある。それを安易にさらけ出すつもりはない。


 俺の過去に関しては、ただ自分が弱かっただけで自分がもっとちゃんとしていれば何の問題もなかった。


 だけど、気づくのが遅すぎたのだ。


 でも、彼女の場合はそうではないと思う。


 たぶん、聞いてしまったら呆然としてしまい、何を言ってあげたらいいか分からずに彼女を余計に傷つけてしまう可能性も十分にあり得る。


 そんな自分が、出ても解決どころか余計にこじらす結果になりかねないと思って待つことにした。


 それでも、いつかは彼女の悩みを取り除いてあげたい気持ちは変わらなかった。


 それは、俺が彼女のそばにいたいっていう気持ちの表れなのかもしれない。


 この感情はアレなのかもしれないが、まだそうとは俺には思えなかった。


「俺はどうするべきなんだろう。自分の本心が分からないのに近くにいるのは申し訳ないし」


 でも、この気持ちを誰かに吐き出したい。


 あの人に吐き出せばある程度受け止めてくれるだろうしそれに伴って助太刀もしてくれる。


「頼れって言われてもなー」


 それは意味のないこと。4月にはあの人は学校にはいない、中途半端なことをすれば取り返しのつかないことになりかねない。


 だからこそ、自分一人で解決しないといけないと思っていた。


 あの人以外、誰を頼ったらいいのか分からなかったのが一番。実際の所、その頼り方すら知らないのだから。


 それは、俺がまだあの学校で唯先輩以外に気を許せる人が存在してなかったから。


 けど、その認識が間違っていたことに気づかされるのは、寒い冬が去り暖かな陽気が差し始める春先のこと。



『クルクルと少しづつ回る歯車。その歯車は嚙合わせる新たな歯車を求めてる。見つけた新たな歯車に歯車を嚙合わせる。すると、低く重い音が鳴った気がした』

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