俺の本心は……

 準備から当日までの怒涛の文化祭が終わり、色々とありながらも生徒会はいつも通りの光景が広がっていた。


 違うな、いつもと少しだけ違う光景があった。それは……


 1人は、パソコンに向かってひたすらスコア更新を目論む人。

 

 また、1人は手が空いてるのかパソコンの横にいる人。

 

 パソコンの前にいるのは俺と藤木さんであり、北山先輩から教えてもらった"四川省"と言うゲームを俺がプレーして藤木さんが見ると言う不思議な光景。


 スコア更新目論む俺に藤木さんが拗ねたような言い方をして問いかけてきた。


「先輩、最近スコアが段々と縮まってませんか?」

「ああ、なんとなくコツが掴んだおかげかな。頑張ればもう少し縮められそうだよ」

「そうなんですね、今度教えてくださいね」


 とふたりで他愛のない会話をしていると。構ってくれないでこれまた拗ねる猫のような声を出す人がいた。


 この声を出すのは1人しかいないので……と思いきや別な人の声だった。


「こーらー、そこでいちゃいちゃしない!」

「「してません」」

「そうゆうところ」

「「………」」


 怒られた、小田さんに。


 しかも何故か『いちゃいちゃ』まで言われる始末。俺らそんなことしてた?


 北山先輩と唯先輩の方が毎度いちゃいちゃしとるやんけと心の中で叫んでみた。


 唯先輩は呆れたように言ってきた。


「2人までいちゃついたら小田ちゃんとブーが可哀想でしょ」

「唯先輩、私は別に羨ましいなんて思ってないですよ。寧ろ離れて欲しいです」

「えー、そうなの。ここに余り物には福があるっていうけど?」

「余り物を手にするくらいなら1人でいいです!」

「あーあー、ブー振られたね~」


 何故か、いつの間にか小田さんとブーこと松木にターゲットが代わっていた。


 小田さんに至っては、毒舌全開で松木を否定。


 ただ、彼女の場合は男子全員に対してこのスタイルなので。


「ちょっと先輩、酷くないっすか。しかも余り物って……」

「余り物も振られたもれっきとした事実でしょう?」

「俺何も言ってないのに……理不尽過ぎる」


 松木は、単なる風評被害という巻き込まれである。もうドンマイとしか言いようがなかった。俺にはどうにもできん。


 そこは君が自力で頑張るしかないんだよ、きっとな。


 文化祭終わってからは、学校内で一つ変化があって、その変化とはカップルが異常に増えたことだ。


 まぁ、高校生にとって文化祭は大事なイベントの一つだ。


 これをチャンスを掴んだ者と掴み損ねた者は末路は見えている。俺の友人も何人かは彼女を作っていた。


「まぁ、お前には藤木さんがいるから問題だろう」

「おい、魔人ブー。それ言ったら藤木さんに迷惑だって前にも言ったろ。変な噂がったらどうするんだよ」

「それに関しては本人聞いてみればわかるだろ?藤木さんはこいつなんかどう?」

「なんでお前に下に見られないといけないんだよ。って聞くなよ……」


 魔人ブーもとい松木は、藤木さんに問いかけた。


 松木よ、答えの内容によっては土に埋められる覚悟を出来てるよな?ことによっては俺がショック受ける形になるんだから。


 藤木さんも真面目なので……


「わ、私は先輩がよければ別にそう思われても」

「こらこら、雰囲気に流されない」

「むー」

「え?なに?」

「なんでもないです!」


 藤木さんは拗ねた顔して麻雀卓に向かっていった。なんで拗ねてるのよ?


 事実を言っただけなのに……女心って難しい……


 そして、入れ替わるように唯先輩がこっちに向かってくる。


「しむー、ジュース買いに行くからちょっとついて来て」

「了解です、みんなは買ってくるものあります?」


 聞いてみたが麻雀に夢中だったのであまり聞いてないらしい。っていうか生徒会が麻雀に夢中ってどうかなって思うが課外授業と思えばいいか。


 それに仕事は終えてるので文句を言われる筋合いなどないから気にしないけど。


 そんな訳で俺と唯先輩は飲み物を買う為に1階まで降りると先輩から問いかけが来た。


「ねぇ、しむーって鈍感なの?それとも分かってやってるの?」

「なんのことですか?」

「藤ちゃんのことだよ」

「気づいてないわけじゃないです。ただ戸惑ってるだけです」

「濁したってこと?」

「そうゆうことです。だからですね、この間唯先輩が言ってた意味がやっと理解できましたよ」

「やっとだね~」


 先輩は、あの時点で彼女の心境を察していたようだった。


『別に本人に聞いたわけじゃないからね。それにあの時はもしかしたらって感じだったから』と補足をしていた。


「で、どうするの?」


 先輩は間入れず聞いてくる。


 俺は、どうしたい?それは俺が一番に思っていることだった。


 藤木さんとどうしたいんだろう?それが分からない、今の状況に入り浸りたいのか……それとも……いや、答えは簡単。


 きっと、怖いんだと思う。


 それは、あの場所が俺にとっては今は大事な場所で失いたくない。だから、万が一振られたりなんかした際にはあの場所にはいられない、それが怖くて行動できないでいた。


 俺は正直に答えることにした。


「正直な所は、もう少しだけ距離を詰められたらしっかり行動しようと思います」

「まぁ、そうなる気持ちも分からなくはないけど『大丈夫』って思い込んでいると後悔するかもよ」


 一瞬だけ『大丈夫』の部分だけ強い意志を感じたのは気のせいか?


 だが、この言葉………後になってから知ることになる。大丈夫とは安心する言葉ではない事を。


「肝に銘じておきます」

「うん、よろしい」

「心配かけてすいません」

「いいよ、私は2人がそうなってくれたら心配も報われるでしょ」

「善処します」

「そこは頑張って『俺から告白します』って言ってよ!」


 最後は、先輩の悲痛な叫び声が静かな校舎に響き渡った。それに『します』なんて言ったらしないといけなくなるんだから。


 したいけど怖いものは怖いのだ。


 文化祭から1週間経った日曜日。


 俺達は、駅で集まっていたのは1人遅れているので待ちぼうけしているのだった。


「あいつの遅刻癖は相変わらずだな」

「俺は学校遅刻はどうでもいいですけど、プライベートは30分くらい前に着いちゃうんですよね」

「私もそうです。早く着こうとは思ってないんですけど」

「私が着いた頃にはすでに2人いたもんね」


 小田さんがげんなりした顔で言ってきた。


 学校の遅刻は気にしてないのだが、プライベートは絶対に遅刻してはならぬと自負していて、いつも30分くらい前には着いてしまう。


 だが、そんなことを思っているのがもう1人いるとは思わなかった。どこまで似てるんだよ俺達。


「あー、それでいちゃついてる所を見せつけられてむくれているんだ小田ちゃん」

「そんなことはないですけど、いちゃつきはさておき。みんなが来るまでは楽しく話してましたよ」


 そう、俺と藤木さんは早めに着いたのもありちょいと用事を済ませておいた。


 思い浮かんだのは着いてちょっとしてからだった。その思いつきとは何かと言うと。


 文化祭の前に迷惑をかけた藤木さんのバイト先の梅山さんに改めてお礼を言いに行くためである。


 みんなよりも先に待ち合わせ場所に着いていた俺は、この前のことが少し気になって藤木さんに問いかけてみた。


「そういえば、梅山さんのお礼ってどうなったの?」

「えっと、別に大したことじゃないんですよ」

「もう、終わってるの?」

「いいえ、まだ済ませてないって言うか先輩がいないと終わらないんです」

「どうゆうこと?」

「実は、梅山さんが先輩にまた会いたいから連れて来てって言われまして」


 どうやら、この間のお礼が俺と再度会いたいってことには驚いた。


 なんで俺なんかに?うーん、謎だ……


「この間は、全然話せなかったから話してみたいんだって」

「それはいつなの?」

「期限はないです。お互いが都合のいい時に来てって言われてるので」


 そう言われて、ふと腕時計を見る。


 時間を確認するとまだ20分以上は余裕で待ち合わせ時間残っている。なら俺がここですることは一つだけ。


「そうしたら、今から行くのは迷惑かな?その前に今日は梅山さんいるの?」

「え?はい、今日もバイトしてますよ」

「まだ、時間もあるし。みんなが来る前に戻ってくればいいんじゃない?どうかな?」

「お願いしてもいいですか?」

「良いも何もお礼は早く返さないとね、申し訳ないから」


 そう言って俺と藤木さんは、商店街へ歩き出した。

 

 偶然にもカラオケ店は同じ商店街にあるので少しの遅れなら大丈夫だって思ったのだ。


 そして、バイト先に着き藤木さんが梅山さんの所へ向かい。


「梅山さん」

「お、ひとみちゃんいらっしゃい」

「梅山さん、お疲れ様です」


 梅山さんにあいさつするとニヤニヤした顔していた。さーて、何を言われるんだろう。


「志村君、この間はありがとうね」

「いえ、自分が出来る限りのことをしただけですから」

「まぁ、ひとみちゃんの笑顔が前より良くなったことには感謝するばかりだよ」

「え?」


 藤木さんが驚いた顔して硬直していたが、そんなに変わった感じはしないんだけどな?


 もしかして、俺が鈍感なのか?


「あはは。やっぱ、気づいてないか。自分の顔は見れないもんね」

「ふぇー?」

「あはは、ひとみちゃん顔赤ーい」


 軽快な笑い声が響き、藤木さんは抜けた声を出した後、両手で顔を塞いだ。


 あれ以来ここには来てはいないし、来る必要がないけど、なにかが変わったのは事実のようだ。


 それが俺のおかげと言われても実感すらない。


「で、これから2人でデート?」

「ち、違います、生徒会のみんなで打ち上げですぐそこのカラオケをすることになってて」

「慌ててちゃって~、そうなんだ、今日は楽しんできてね」

「「はい」」


 しっかりと返事すると、梅山さんが俺の方を向き。


「志村君、今日は来てくれてありがとう」

「いえ、これがお礼なんで逆に申し訳ないくらいです」

「なら、君に別にお礼を請求してもいいのかな?」


 なにを請求されるのかとビビっていると。


 しかし、俺に会うだけでお礼はいたたまれないので、処理できることなら受けるつもりで俺はこう応答した。


「自分に出来ることなら」

「ひとみちゃんをよろしくお願いします。ひとみちゃんはきっと志村君を必要としている。少なくとも私そう思う」

「え?それってどうゆうことですか?」

「そのまんまの意味だよ」


 俺は、そう言われて言葉を失った。


 藤木さんが少し場を離れた瞬間に言われるもんだから藤木さんには聞こえてはいなかったようだった。


 藤木さんが俺を必要としている?そう言われたら正直嬉しい。


 でも、心から信じられない自分がいたから返せた言葉は一言でしかなかった。


「分かりました」

「ありがとう、たまには店来てね」

「はい、それでは今日はこれで失礼します」


 俺と藤木さんは店を後にして、待ち合わせ場所に戻ったらまだ誰もいなかったので、あと10分の間は2人でのんびりと談話していた。



『歯車は、少し少しと回る。回り出す時を迎えるかの如く。そして、彼女の中の歯車もほんのすこしだけ動いた。それは微動に等しかった』

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