新たな先輩との出会い

 秋が終われば、身を震わすほど寒い冬が来る。寒いの嫌い。


 世間は、クリスマス目前というのに生徒会室は至って平和だった。平和なのか?


「先輩、すいませんそれロンです」

「あ、やっちゃった」

「珍しいですね、先輩が負けるなんて」


 平和、平和なんて言ってるそばから平和という役で振り込んでる俺。一番平和ボケしてたのは俺でした。


 生徒会室では当たり前のようにジャラジャラと学校に似合わない音がしかも生徒の上?に立つ人達が麻雀をしている。


「ごめん、ちょっと考え事してて」

「そうなんですか?なにか手伝えることあります?」

「ありがとう、でも大丈夫だよ。大したことじゃないからさ」

「そうですか、何かあったら言ってくださいね」


 藤木さんは、そう言ってまた麻雀に集中する。


 相談なんて出来るわけないのだ。


 なんせ悩みの理由が横で打っている藤木さんのことなのだから。それを本人にどう聞けというのだ?神風特攻隊じゃないんだから……


 打ち上げの後から俺は考えることが多くなっていた。


 まぁ、授業は最初から愚行しかしてないのは今更だが最近は、なにをしていても集中が続かないのだ。


 PCのゲームもタイムは平均以下、さっきの麻雀もさっきからありえないことをやらかしている。


「おいっす」「おつかれ~」


 軽快な声が聞こえてきた。北山先輩と唯先輩である。


 北山先輩は、麻雀卓を見て不思議の顔をしていた。


「志村、なにやった?」

「いえ、ちょい考え事してたらミスりました。ちょっと集中しきれてなくて」

「らしくないな、なにがあった?」

「いえ、家のことやバイトのことで。本当に大したことじゃないので」

「そうか」


 先輩に嘘ついてしまったのには申し訳ないのだがこればかりはさすがに言えなかった。


 でも、それを許さない人がいた。


「むー、ちょっと飲み物買ってくる。あ、それと」

「分かった」

「しむーもついでに借りるね。しむー、おいで」

「え?ちょ、ちょっと!?」


 俺は、ほんとに呆けていたのだろう。唯先輩の言葉についていけなかった。


 その首根っこ掴まれたかように買い出しに付き合うことになった。


「藤ちゃんとなにかあった?」

「いえ、なにもないですよ」

「ほんとに?まさか、あの後帰った時に怒らせるようなことしたのかな?あ、でも藤ちゃん怒ってるようには見えなかったしな」


 なんで、バレちゃいけない人に簡単にバレるのだろうか?


 顔か頭の上に電光掲示板のような物付いてるのかな?


 「でも、藤ちゃんのことには間違えないんでしょ?それだけは分かるよ」

 「……はい」


 俺は、間を置きながらも頷くことしかできなかった。


 唯先輩は、そんな俺に。


「私じゃ、頼りにならないのかな?」

「いえ、そんなことないです。寧ろ、先輩のおかげでいろいろと気づかされたことばかりで感謝しかないです」

「なら、どうして?」

「やっぱり、怖いっていうのがあるんだと思います」

「それじゃ、いつまで経っても前に進めないよ?」


 俺の言い訳じみた言葉に正論を思いっきりぶつけてくる。


 逃げ切れることではないので正直に話すことにしよう。諦めも時には肝心……だよね?


「先輩を頼りにしないのではなくて、したくないからです」

「それは、信用してないってこと?」

「逆です。絶対的な信用があるせいでなんでも頼ってしまいそうなので」

「前にも言ったけど、私は2人が恋仲になってくれるならいくらでも頼って欲しい。むーも同じ気持ち」


 むーとは、北山先輩のことである。ここ最近はそう呼んでいる。


 俺の憧れの形で形成されている2人にそう言われると心が安らぐ。


 その気持ちを裏切ってしまうかもしれないが俺は本心を言うことにした。


「先輩達に頼ってしまったら卒業後も頼りきりになるのが嫌なんです」

「自分だけで解決できるのそれって?」

「正直、難しいです。以前比べれば前進はしていると思っています」

「うん、それは認めるよ」

「俺は、藤木さんのことをまだあまり知りません。だからこそもっと知りたい、そして知ってもらいたい」


 俺は、唯先輩に話してる中で自分が彼女に好意を抱いてることに気づいてなかった。


 すると先輩は、ため息をつきながらも。


「分かった、しむーが私達のことを思ってくれてるのは理解したよ」

「ありがとうございます」

「でも、逃げてるのは変わらないからね。前にも言ったけどしむー以外にも彼女に目を向ける人はいるってことは分かってる?」

「理解してるつもりです」

「つもりじゃなくてそこはちゃんと認識しないとダメ!」


 珍しい。あの、温厚で天真爛漫な唯先輩が怒ってる。


 俺は、心の中で唯先輩なら『しょうがないな』って言ってくれると思っていたのかもしれない。


 その時点で俺は、先輩に恵まれているんだと思う。


 いや恵まれている。だって、こんな俺に唯先輩たちは気にかけてくれて尚且つこうやって怒ってくれる。


 こんな素晴らしい先輩達に出会えた俺は幸せ者だと。


「唯先輩、ありがとうございます」

「なにが?」

「俺のなんかの為に怒ってくれて」

「なんかじゃないよ。しむーだから怒ったの」

「どうゆうことですか?」


 俺は、先輩の返しに戸惑っていた。


「しむーは私がなにかしても笑って済ましてくれるでしょ?」

「俺は一種のコミュニケーションだと思ってますから」

「そう思ってくれる後輩はしむーだけ」

「松木だってそうじゃないですか?」

「ううん、しむーと松木は同じに見えるけど全然違うよ」

「そうですか?」


 唯先輩は、同じ後輩なのに全然違うというがなにが違うのかな理解できなかった。


 一体、なにが俺と松木で違うところがあるんだろうか?


「しむーは私を1人の先輩、女子と見てくれる」

「松木だってそこはまったく同じなはずですよ」

「ううん、松木は私がむーの彼女だからっていう感じに思ってるの」

「そんなことないとは思いますが?」

「実際、松木は私がなんかしても適当なリアクションでしょ?それは、むーの彼女で何か言ったら後が怖いって思ってる」

「でも、しむーは私に対してちゃんと返してくれる。私以外にもね」

「それは、俺が今まで女子と仲良くなったことがないからで」


 そう、俺は女の子と仲良くなったことは殆どない。


 あるにはあるが、ほんの一時的なものが大概だった。


「それで助けられてることもあるんだよ。私も藤ちゃんも」

「俺はただ、俺と仲良くなってくれた人には感謝で出来ることをしようと思ってるだけです」

「それがしむーのいいところなんだよ」

「ありがとうございます」


 怒ってくれた後のこの流れなもんだからまた甘えそうだ。でも、いつまでも甘えるわけにもいかない。


「今以上に状況を悪化させないことに全力を注ぎます。今の所はそれで許してもらえませんか?」

「悪化したらどうなるか分かってるの?」

「どんなことでも甘んじてお受けする次第です」

「今日の所はこれくらいにしておく。十分に釘刺すことできたし」


 唯先輩は、呆れつつも『しょうがないな』って顔していた。


 冬休み直前、俺はまた新たな出会いをすることになる。


 俺と松木は、図書室に招かれた。何故?


 俺は、理由は知らずで松木は知ってるようだったので問い詰めた。


「おい、なんで生徒会室じゃなくて図書室なんだ?」

「単に、ソファーが生徒会室に無いから」

「理由が雑すぎる。で、図書室で何するんだよ?」

「先輩と会うんだが?」

「北山先輩か?余計謎だわ」

「いや、先輩は先輩でも北山先輩の上の先輩だよ」


 と、松木はものすごく珍しく怖いくらい丁寧に語った。


 単語がただ連なってるだけで弄れるっていいキャラだよな、こいつ。


「気づかないふりしようと思ったけどディスっての分かるからな?」

「悪い、悪い。たまには弄ろうかなって」

「うるさい」


 憎まれ口を叩きつつ図書室に向かい、ドアを開けた。


 ソファーには見知らぬ先輩が2人座っていた。対面のソファーには北山先輩ともう1人見知らぬ先輩が座っている。


「おう、松木。久しぶりだな」

「神野先輩、菅村先輩、家頭先輩、お疲れ様です」


 松木がこれまた丁寧にあいさつする。


 生徒会ってやっぱり上下関係が厳しいのかな?なんて、思っていると先輩が俺に声をかけた。


「君は生徒会の役員かな?」

「いえ、サポーターしています2年の志村といいます」

「志村君か。これからも生徒会をよろしく頼むな」

「あ、はい」

「男子でこれだけ真面目なのは初めてじゃないのか?」


 神野先輩はスマートというか痩せ細った感じで常にテンションが高い人だった。


 菅村先輩は、人先輩とは正反対でガタイがよく、物静かな人って感じがしたけど、神野先輩を弄ってるのを見て物静かではないと察した。


 神野先輩と菅村先輩の対面に座ってる先輩は家頭先輩。


 なんというか、正直に言えば俺が3人の中で一番苦手な人だったが、2人の先輩と違って自分から来ない分、どう対処したらいいか分からなかった。


 でも、俺はこの3人の先輩方のおかげで今後いろいろとお世話になるとは思ってなかった。


 やはり、俺は先輩という人種に恵まれすぎている。この学校に来てよかったって素直に思えた。



『嚙合わさった歯車は、波長を合わせるかのように回る。でも、それはいくつもある歯車の一部分。一つ回ればあとは数珠つなぎのように回り出す。そして、また一つ大事な歯車が眠りから醒めたかとように動き出す。』



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