喧嘩勃発

 トップ3人が不在の中、決めることを決めてゆっくりしていると俺は、ふとパソコンに目が向いた。


 そういえば、俺が生徒会室に来てからパソコン触ってる人がいない。って言うか動いてない。


 あの日以来、よく生徒会室に来るようになってからは麻雀の腕も多少は上がったと思う。良いことなのか悪いことなのか……


 なので、麻雀をしたいなーって思っても相手してくれる人がこの場にいないである。


 そう思っていたら生徒会室のドアが開いた。


「おつかれー」

「北山先輩、お疲れ様です」


 北山先輩は、先月までは役員で会計監査をしていたが任期が終了し今回のように手が空いたり、暇だったりすると来てくれるのだ。


 北山先輩がいるってことは当然ながらあのお方がいるわけで……そして、毎回って言っていいほど洗礼?を受けることになる。


「しむーー、お疲れー」

「いてーーーー」


 唯先輩は、天真爛漫な笑みでよく背中を叩くので9月半ばで半袖だった時は、背中に紅葉が出来ていた。しかも何度も作られた。


 それ見た唯先輩は『ちょい早いけど紅葉が見れた』と言ってた。やられている俺の姿を見ていた北山先輩や藤木さんとかは笑っていた。


 会うたびに背中を叩かれたり、いろいろといたずらをされるのである。


 俺じゃなくて先輩にやってくれと、心の中で願ったがそのささやかな願いは一度も叶うことはなかった。


 それにしても助ける気ゼロなんですね、北山先輩すらも。背中をさすりながらも俺は北山先輩にとあることを聞いてみた。


「先輩、このパソコンって動かないんですか?」

「動くけど、ソフトとかあまり入ってないぞ」

「置いてあるだけってことですか?」

「一応入ってはいるけど見るか?」


 そう言って先輩は、パソコンを起動させて俺らに見せてくれた。


 うん、見事に何もなかったが俺がふとデスクトップの端の方のアイコンが気になった。


 ん、四川省?全く聞いたことない。


「これか?これは四川省っていって麻雀牌が四角形になっていて全部消してタイムを競うやつなんだよ」

「初めて見ました」

「気になるならやってみたらどうだ?」

「わかりました、ちなみに平均タイムみたいのはあるんですか?」

「いや、平均はないがベストタイムならここある」


 と言って先輩に言われるままマウスを動かしてランキングをクリックした。


 すると『2:30:40』が一位だった。


 とりあえず、やってみないことには始まらないのでプレーをしてみた結果。


「5:50:33」

「最初ならまあまあじゃないかな?」

「そうなんですか?」

「俺ももう全然やってないか最初の頃の記録は忘れた」

「シンプルですが面白そうなんでまたやってみます」


 そう言って、パソコンから離れて俺は先輩に問いかけた。


「今日は、どうかされました?」

「うーん、特にやることないから麻雀しようと思ったんだが面子が足りないな」

「ですね、自分と先輩二人でほかに出来る人いませんからね」


 どうしようと悩んでいたらトップの1角が返ってきた。一角というより一豚の方が正しいか。


 俺がそう思っていると先輩が松木にこう言い放った。


「おー、塚亀2世どこ行ってたんだよ」

「ちょっと、誰があれの2世ですか」

「どう見てもお前以外いないだろう」


 先輩と塚亀2世もとい松木のコントらしきことをしていた。ちなみに塚亀という方は鍵山の前の生徒会長らしい。


 いまだに会ったことない。


 そんで塚亀という人は松木に体系が似てるらしい。


「よし、メンツも揃ったからやりたいんだけど大丈夫か?」

「はい、一応ですが決めるところは決めましたのでトップ不在でしたが」

「それは、俺の代でも大して変わらないから気にするな」


 どうやら、うちの生徒会長様は、代々適当らしい。いいのかそれで?


 先輩は、補足するようなこと言ってきた。


「俺らのより上の代の生徒会長はちゃんとしてるよ」

「そうなんですか?」

「なんか冬休み前に来るみたいなこと言ってたから会ってみるといいかもな」

「どんな人なのか会ってみたいですね」


 生徒会としての仕事は大半は終えているので、帰りたい人は帰っていいよって伝えて残ったのは。


 俺と松木に先輩2人だけになるはずが……藤木さんが残っていた。何故?


 唯先輩も不思議に思ったのか、藤木さんに問いかけた。


「藤ちゃん、麻雀出来るの?」

「出来ないんですけど、バイトまでまだ時間があるので」

「なら、時間まで見ていったら?」

「はい、そうさせてもらいます」


 そう言って、藤木さんは俺と唯先輩の間に椅子を持って座ってきた。


 あれ、なんで俺らの横に?覚えるなら北山先輩と松木の横がベストのはずなのに。


「志村先輩、唯先輩、よろしくお願いします」


 そう言われてしまっては無下にできないのでやれる最大限のことはしたが完敗だった。


 藤木さんは、バイトに行く時間になったので先に帰った。


 何故、初心者に近い俺の横に来たの?あ、違うな唯先輩の横にいたかっただけだな。


 それが一番納得する答えだな。


 夢中になってたせいか陽も落ちかけていたので4人で駅に向かって歩いていた最中に唯先輩に声をかけられた。


「ねー、藤ちゃんはなんでしむーと私の間に来たんだろうね」

「自分もわからないです。普通の考えるなら先輩には申し訳ないですが、北山先輩と松木の間がベストのはずですからね」

「そう解釈するか」


 唯先輩は聞こえるか聞こえないかギリギリの声で呟いた。


「え?」

「ううん、なんでもない」

「なんですか?」

「確証はないけど、あの位置が一番安心出来る場所だったんじゃないかな?」

「だったら、先輩と唯先輩の間で良かったはずですよね?」

「あ、これ分かってないやつだ、こうなれば本人に聞くか」

 

 また、小さく呟いたけどその声はちょうど電車の到着音と重なり先輩の声はかき消された。


 文化祭もあと少しって所で厄介な事件が起きた。

 

 それは、生徒会としての団結力の無さが生んだ結果だった。


「おい、これどういうことだよ」

「先輩たちが全然関与してくれないからこちらで決めました」

「なに勝手なことしてくれるんだよ!」


 俺が生徒会室に入ろうとした時に怒号が響き渡る。一体、何があったと思いドアを開けて入ると鍵山と藤木さんが言い争ってる所だった。


 要は、文化祭の催し物を勝手に進めたことに腹を立てているらしい。こうなるのは多少予想済みな部分はあったがすぐ済むだろうと、思っていたら予想外の出来事が起きた。


 「だ、だったらなんでちゃんと見てくれなかったんですか!!」


 藤木さんからも怒号が放たれて、彼女の頬に一筋の涙が流れ彼女は教室を飛び出した。


 なんだろう?今彼女の所に行かないの行けないのは俺じゃないのかと思い。


『俺が追う』と言って松木に後を任せて彼女の後を追った。


 そんな遠くには行ってなくてすぐに見つけることができた。俺は、階段に座って落ち込んでいる彼女の下へ向かった。


 彼女は俺が近付き、顔を見るなり顔を下に向けてしまった。


 きっと、彼女は俺に怒られると思っているのかもしれない。俺が怒る理由なんてないんだけどな、怒れてしまうという、そんな心理状況にいるんだろうな。


 でも、それは勘違い。ほんとに悪いのは……


「ごめん、俺がちゃんと伝えておけばよかった」

「なんで、志村先輩が謝るんですか?」

「あの時、進めたのは俺だから」

「違います、あの時に志村先輩が言ってくれなかったら決まる物も決まりませんでした」

「それでも、俺はあいつらと同じクラスだから言う機会はいくらでもあったはずなのに言わなかった」

「それは、志村先輩は役員でもないわけですからそこまでする理由がありません」

「だとしても、もうこれ以上自分を責める必要なんてないから。責任は上級生が取ればいいんだからもう気にしないでくれ。頼む…」


 彼女は、一貫して自分だけを悪者にして俺を庇ってくれていた。俺は、初めて自分の無力さに気づかされた。


 ただ、ずっとこうしてる訳にもいかず一旦生徒会室に戻るよう説得した。


 彼女の落ち込んだ顔は戻らないまま戻ったが、いたのは松木だけだったが落ち込んだ顔を見た松木は藤木さんに。


「任せっぱなしにしてごめん」

「もういいです、悪いのは私なんで」

「で、結局どうするんだ?」


 きっとこのまま話しても平行線のままだと思い帰宅の提案をした。


 俺は、松木に俺らが飛び出した後のことを聞くことにした。だが、時間が時間なので帰りながら話すことになった。


「今回の件に関してはちゃんと関与してない俺らが悪いって話になって藤木さん達のやりたいようにやって欲しいそうだよ」

「ん、ちょっとまて。そうなると全部こっち任せってことか?」

「そうなるかな?鍵山も金田もライブに出るからそのせいでこっちに顔出せなくて俺がいるからって思ったらしくて」

「全部、トップの不手際じゃねか!!」

「本当にごめん!!」


 もっと言いたいことがあったが落ち込んだ彼女の顔見たらこれ以上言うと自分を追い込みそうなのでやめた。


「分かったよ、なら俺らで勝手にやるから。お前は当然、手伝ってもらうからな」

「ああ、分かってるよ」

「まぁ、サポーターでもない俺が手出してるのが一番悪い気がするんだけどな」

「ん、お前も生徒会のサポーターになってるけど?」

「はあ?なんで!?」

「前に先輩が言ってたじゃん、いつの間にかサポーターになってるって」

「自分がそうなるなんて思ってねぇよ!」


 電車も来たことだし、落ち込んでる藤木さんの様子を見ながら俺は電車に乗り込んだ。


 電車に乗ってる最中に考えていたことは、藤木さんをどうしたらいいかで頭の中がいっぱいだった。


 この喧嘩騒動で二人の関係に変化をし始め、文化祭を終えた時には二人はどうなるのか。


『この時、心の奥底の大きな歯車が動き出したような気がした。深く閉ざされた扉を開けるかの如く。次第に嫌なるくらい大きな音になっていく。』




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