さぼりの場所が生徒会室!?

 あの事から数週間が経ち、傷も癒えたと思うが実際のところは傷だったのか。


疑問だったが……あれは、思い込みだ。


 きっと、可愛いや綺麗な子に憧れがあっただけなのかも知れないが、その後に彼女を見ても何も思わなかった。


 不思議なもんだな。『恋』ってなんだろうって思ってしまうほどに。


あれは恋なんかじゃくて『彼女』という憧れでああなったのだと……


 生徒会役員もだいぶ落ち着いたようで、教室にいたとある奴から俺を呼ぶ声がして振り返った。


 見るからに暑苦しい、もう9月なのに……


「おーい、志村。ちょっといいか?」

「なんだ、デーブ松木」


 いじられキャラ松木君登場である。


 うーん、相変わらずぽっちゃり体型ですね。しかし、愛くるしくないのはどうしてだろうか?いや、今のは失言だったな……


 けど、あの◯まのプーさんでも包容力あるのに。


「誰がデーブだよ!それよりもこれから生徒会室で先輩達と麻雀するんだけどお前もよかったら来ないか?」


 ………………は?


 ちょい待ち。麻雀って学校でやるもんじゃないだろう、一瞬だけ聞き間違えたのかと思った。


 生徒会室で麻雀なんて、そんなのありえないだろう。


 だって、ジャラジャラ音が半端なくするし、しかも、放課後ならまだしもこれから授業なのに。


「いや、ちょっと待て。一つだけ聞いていいか?」

「なんだよ?」

「お前、役員だよな?役員さぼるのはどうかと思うが?」

「役員だからさぼってはいけないという法律はない!」


 力説、いや見事に正論言われた。


 マスコット又はいじりキャラに言われるとは思わなかった。


 確かに役員だからってさぼるのは本人の自由だが、正直言えばこいつがさぼるなんて考えもしなかった。


「まぁ、さぼるのも麻雀するのもいいが問題ありすぎないか?」

「音の問題か?」

「ああ、だって隣1組の教室じゃねぇか」

「仕方ないじゃん、先輩たちがやりたいっていうんだもん」

「そうゆうことか」

「来るのか?来ないのか?早くしないと文句言われるからさ。俺にだけ……」

「麻雀はしたことないからさぼるついでに覚えるわ。俺は怒られないから問題ないから」

「了解、って相変わらずだなお前は!」


 という訳で次の授業のさぼりは確定。


 もう、俺の中でさぼるという行為は当たり前の光景と化していて、この時の俺は卒業さえできればいいと思っていたから。


 今まで陰キャラに近い人間が生徒会室に踏み入れるなんて思いもしなかったよ。


 陽か陰と言われたら実際わからんけど、どちらかと言われたら陰寄りだけどね。


 まぁ、生徒会室と言えば綺麗に机とか並べてあって堅苦しい雰囲気なんだろなって思いながら松木がドアを開くとそこには……


 (こ、これが生徒会室なのか……あ、ありえない………)


 俺の心の声である。


どこからどう見ても、ここが生徒会室ではなく単なる物置き場にしか見えなかったのである。


「ここ、本当に生徒会室なのか?ドッキリとかじゃなく?」

「ああ、ここが間違いなく生徒会室だ」

「そ、そうか」


 乾いた声しか出せなかった俺は松木の後に続き教室に入り周りを見渡す。よく見れば資料等が乱雑ではあるが置いてあった。


 ここが生徒会室と実感せざる得ない瞬間だった。


 しかし、ここが俺の最高の居場所になるなんて、この時の俺は絶対に想像出来なかったと思う。


「おう、やっと来たか遅いぞ松木」

「すいません、ちょっと知り合いを連れてきたもので」

「同じクラスなのか?」

「そうです」

「名前は?」


 先輩だと思われる方から問いかけられて俺は普通に答えた。


「松木と同じクラスの志村です。松木がさぼるからお前も来いって言われて拉致られました」

「おい、俺はただお前に聞いただけで拉致ってない」


 と簡単な紹介ともにいじりも一緒に行う効率厨の俺。


 そんな、やり取りを見ていた先輩は笑いながら。


「松木、お前クラスでもキャラ変わらないのか」

「生徒会でもいじられキャラなの?」

「らしい」

「ご愁傷さま」


 やり取りを終えて先輩が俺に向かってこう言ってきた。


「ようこそ、生徒会へ」

「へ?」


 俺は、先輩のたった一言に間抜けな声が出てしまった。


「一度でも生徒会室に来るといつの間にかサポーターとかになってたりするんだよ」

「そうなんですね、松木からはそうゆう話は聞いてなかったので」

「まぁ、話すことでもないし松木に話してもめんどくさい奴を連れてこられてもこっちが迷惑だからな」


笑い飛ばすように言い放つと同時に自己紹介をしてくれる。


「俺は北山進、俺の前にいるのが剣山光だ」

「私は、中本唯だよ。よろしくね志村君」


 北山先輩は、目の前にいる先輩の名前も伝えくれた。


 中本先輩に至っては、フランクに受け答えしてくれた。


「北山先輩、剣山先輩、中本先輩よろしくお願いします」


 北山進先輩。なんと言うかほんとに見た目普通の人なのである。


 後々、判ることなのだがこの人がこの学校にいるべき人ではないと悟ったのは、冬休み明けのことだった。


 能ある鷹は爪を隠すとはまさにこのことであった。


 剣山光先輩。眼鏡をかけていていかにも勉強できますって感じの先輩だった。


 少し痩せすぎのような気がする……大丈夫か?


 中本唯先輩。一般女子の平均より少し低く、なんと言うかまるで猫ような面白いものを見つけると飛びつく感じ。


 とても天真爛漫な人である。後々、俺はこの先輩の遊び道具となるのはちょっと先の話になる。


 余談になるが北山先輩と中本先輩は恋人同士だった。でも、この2人がいたことが今後の自分に大きな影響を与えてくれたのは間違いなかった。


 自己紹介も終えて松木と先輩方はささっと例の準備を始めた。ここに来る前に話していたことが目の前で展開されていた。


「まさか、本当に麻雀牌があるなんて思ってなかったです」

「いつもは、普通に放課後に先生も交じってやることが多いんだが」


 ちょっと待て、今おかしな単語出なかったか?先生って教師?


「顧問が麻雀大好き人間だからたまに来るんだよ」


 顔に書いてあったのか思うくらいに読まれていてびっくりした。


 そりゃ、教師が混じって麻雀するなんて思いもしないからね。


 寧ろ、注意しないといけない側なのに。


「そうなんですね」

「先生曰く『まぁ、遊ぶだけなら頭の運動にもなると思うから賭けとかしなければいいんじゃないか』ってね」


 そう言いながら麻雀を始めるが俺は麻雀・ドンジャラは未経験だったためとりあえず北山先輩の後ろで静かに見ていた。


 うん、やり慣れてる。っていうか中本先輩も出来るのね。


「見てるだけだと面白くないからこれが終わったら志村も入れ」

「いいんですか?まったくやったことがなんですけど」

「一応、ガイドブックがあるし別にのんびりやるから気にするな」

「分かりました、よろしくお願いします」


 俺が入るまで時間が多少あるらしくその間にガイドブックを読んでおいた。


 俺が麻雀にいとも簡単にハマってしまったのは言うまでもない。俺ってちょろいな本当に。


「志村って本当にハマったりするの早いな」

「楽しいことはずっとやっていたい人間だからな」

「その内、自分の家でもやり出しそうだな」

「ありえるから怖いわ」


 結果、その通りになるもんだから本当にハマるって怖いね。何事も。


 さすがにさぼりって言ってもずっとここにいる訳にはいかないので俺と松木は昼休みのチャイムが鳴ったのを聞いて立ち上がった。


「先輩、すいませんがそろそろ戻ります」

「そうか、きてくれてありがとうな」


 間をおいて先輩が俺に声をかけた。


「あ、そうだ志村」

「なんでしょうか?」

「もし、志村がよければいつでも来い。また遊ぼう」

「ありがとうございます、迷惑にならない程度に遊びに来ます」

「おう」

「では、失礼します」


 俺と松木は、生徒会室から出て自分の教室に戻る。すると松木が俺に声をかけてきた。


「志村、初めて生徒会室に入った感想はどうだった?」

「ああ、思っていた生徒会室とは正反対だったわ」

「この学校だからな」

「一理ある。まさか先生までやってると思わなかったぞ」

「まぁ、何はともあれ先輩たちに気にいってもらって良かったな」

「そうなのか?社交辞令みないなもんだと思ったぞ」


 そりゃ、ただ遊びに来ただけで気に入られるなんて一片だって思わない。


 それを珍しく察したのか、俺にこう諭してきた。


「生徒会って聞くだけ堅苦しいだろ?」

「たしかに」


 心の中で、『お前ら3人いる時点で堅苦しさゼロだよ』って叫びたくなったのはここだけの話。


「だから、役員以外はあまり人がいないんだよ」

「そうなのか?」

「なので、お前みたいにホイホイじゃない、堅苦しいのに来てくれたから気に入られたんだよ」

「お前、一瞬G扱いしやがったな?」

「気のせいだろう?」


 その後、逃げようした松木は俺に簡単に捕まり購買へ連行されて飲み物とパンをお詫びとして頂いた。


 松木は『カツアゲだ!』と言っていたが知らんが人をG扱いした方が悪いのだ。


 そもそも50m8秒の人間が50m6秒の人間に敵うわけないじゃん!


 いつもカツアゲとかしてないよ?今回だけよ?多分......あいつが全部悪い!


 今回、生徒会室に行ってみて思ったのが一つある。


 きっと、俺はこれからもあそこに向かうことが多くなるだろう。まるで、何かに惹かれるように見えない糸に引き寄せられる感じがしたのだ。


 不思議とそんな気がした。しかも、自分の確固たる意思で。


 この予感が的中するのはそう遠くない日だった。


『その日こそ、運命の歯車が本格的に回りだす予兆であった』

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