第7話 5月2日
風呂を済ませた雪斗は、パソコンを立ち上げ、オンラインゲームを起動させた。するとふいに壁からドンドン、と叩く音が響いた。アパートの壁が薄いことを利用したスマホを見ろ、の合図だ。雪斗は、パソコンの画面から目を離し、携帯を確認した。すると、やはりみゆきからLIMEが来ていた。ちょうど雪斗が風呂に入っている時間にメッセージが届いたので、通知に気づかなかったようだ。
雪斗はLIMEを開き、メッセージを確認する。
“夜、佐貫くんの部屋で宅飲みしたいです。行っていい?”
雪斗としては特にすることもなかったので、提案を受け入れることにした。
携帯を持ち、布団の上に座り、壁に寄りかかる。
“ごめん。気づかなかった。いいよ”
送ってすぐに既読がつき、返信が来た。
“ありがとう、何時がいい?”
“俺はいつでも大丈夫だよ”
“分かった。じゃあ、お風呂入ってから行くから、一時間後くらいに行くね”
“了解。だけど、風呂長くないか?”
“これでも女の子ですから、色々することがあるので”
“なるほど、そういうものか。髪も長いしな”
“そういうものです。髪の手入れ大変なのよね”
“女の人って大変だな”
“そう、大変なの。だからしばしお待ちください”
その文言とともに、茶色い猫がお辞儀するスタンプが送られてきた。
“了解”
一通り話を終えたと思った雪斗は、パソコンの前に戻った。ゲームのスタートボタンを押そうとすると、携帯が震えた。見るとみゆきからのLIMEだった。
“そういえば今何してるの? もしかして忙しかった?”
“忙しくないよ。何だったら今ゲームしてる。さっき気づかなかったのは風呂入ってたから”
“えっ、佐貫くんってゲームするの?”
“うん、ゲーマーではないけど、たしなむ程度には”
“そうなんだ。ちなみに、どんなゲームするの?”
“今やってるのはデイ・バイ・デッドラインっていうオンラインゲームかな”
“ほんと! 実は私もそれやってるんだよね!”
“そうなんだ! 藤代さんもゲーム好きなの?”
“うん、結構好きなんだ。明日一緒にやらない? どうせ暇だよね?”
“どうせは余計だと思うけど、暇であることは確かだからいいよ”
“じゃあ、明日ね。ランクはいくつ?”
“サバイバーが十七で、キラーが二十だったかな”
“サバイバーの方がやってあるのね”
“そうだね。藤代さんはキラー派なの?”
“うん、殺されるより殺したいじゃない”
“そ、そう?”
“ゲームだから人のこと殴り放題だしね!”
“大丈夫? ストレスたまってるの?”
“まあ、それはそれとして、プレイ時間は?”
“大学入って、友達に誘われてからだから、まだ三十くらいかな。藤代さんは?”
“えーっとね、七十か八十くらいかな”
“おー、結構やりこんでるんだね”
“まあね”
“ランクは?”
“キラーが三で、サバイバーが九かな”
“えっ? 超強くない?”
“そうでもないよ。でもたぶん佐貫くんは一ひねりだけどね”
“じゃあ、今のうちに練習しなくちゃ”
“うん、頑張ってね。じゃあ、私お風呂入ってくる。ピンポン押したら早く開けてね”
“了解”
既読が着いたことを確認した雪斗はスマートフォンの画面を消し、机に置く。パソコンはすでにスリープ状態になっているらしく、画面が真っ黒になっていた。電源ボタンを押し、パスワードを入力して、起動させる。ふと時計を見ると、LIMEを始めて二十分近く経過していたことに気づいた。
宅飲みするんだから直接話した方がよかったのではないか、と雪斗はしみじみと思った。
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