第1話 新月の巫女〜金飾り〜

猫とおなじように

気位の高い女性だと

一目見てわかった。


ちかよりがたい空気を

かもしだしていることを

本人も わかっているようで。


人とはちがった

金飾りを胸につけている。


とても 立派なものだから

口の悪い人たちは

誰からの贈物かと

いつも うわさしている。


だきあげられることは めったにないが

すれちがうと 必ず目が合う。


『あら、夜。今日もいい毛並みね』

と 笑顔をみせてくれる。


アイデアマンで

いつも 人より先にすすんでいる。

そんな自信も 彼女をつくっているのだろう。


そんなところを 上弦の月の巫女からは

思いやりがないようにうけとめられて

ちゃんと話をするまえに すっと かわされてしまっている。


その反対に

下弦の月の巫女は 彼女にたいするあこがれと

その面倒見のよさから いつも

新月の巫女を 応援してくれている。

全部説明するまでもなく なにかと 手助けしてくれる。


その天真爛漫さに

ひかれつつ つかみどころのない満月の巫女からは

いろいろなものを 吸収できると 感じている。

だって 彼女は

わがままにふるまっているように

みえるのに なぜ 人があつまるのか 

新月の巫女からすると

なぜ ゆるされるのか ちょっと不思議だから。


じつは

けっこう 小さいことで悩んだりすることもあるのに

負けを認めるのはいやだから

たとえ ひとりぼっちになっても

自分の意見は正しいと 思っていないと

やっていけないわ。


なんて 愚痴を 時には 猫にこぼしたりもする。

でも慰めてほしいわけじゃないみたいだから

すりよることなく

にゃ とだけ きいていると とだけ

答えておく。


そんな彼女は

新月の巫女の一人。



猫は 彼女をこうよんでいた 新月の金飾りの巫女と。



〜〜〜

彼女の革新的な意見が

まわりに うけいれられず

孤立しているときだった。


『まあ いつものこと。

 なんて 頭の固い人たち。

 そんなんじゃあ なにも 未来にすすめないわ』


そういいながら

いつもなら ついてきてくれる下弦の月の巫女すら

もうしわけなさそうに はなれていったものだから

くやしそうに くちびるをかんだ。


ただ この場所をいい方向にむけたいだけなのに。

ただ みんなに 希望をもってほしいだけなのに。


にゃあ。


そばを通ると 目があう。

無理に笑う新月の巫女。目が赤いよ。


おしりとおしりをくっつけて となりに座ってみる。


彼女は

胸飾りをぎゅっとにぎりしめる。


『ねえ。夜。教えてあげる。

これはね。私の勲章。』


金飾りの巫女は 本当は 宮殿にあがるはずだった。

子どもの時からそうきめていた。

だから 勉強もした。


私の力をためせるところに いきたい。

私には なにができるのだろう。

なんのために この世に、 今ここに生まれてきたのだろう。

きっと 宮殿には その答えがある。


私の手には 手段がある。


あとは これは つかうだけ。


なにができるかな。

でも きっと できる。どんな仕事を与えられても

私は こなしていける。成功していける。


そのはずだった。


〜〜〜


父と兄に付き添われ

宮殿へ。

なんて 大きいのだろう。

なんて 美しいのだろう。

私は ここで 働けるのだ。


どうやら お偉い大臣が 娘たちを

働く場所へと ふりわけている。

父が誇らしげに 私にできることを語っている。

字が読み書きできる娘は 彼にも自慢なのだ。


『で いくら払えるんだ?』


大臣はリベートをうけとることで

娘たちのわりふりをしていた。


父も兄も くいさがる。

うちの娘は そんなことで評価される子ではない。


『ではそれだけ美しいのだ。ハレムで水汲みでもしていれば

 お目にとまるやもしれんぞ』と大笑いをした。


その侮辱に耐えかねて 父が飛びかかろうとする。

兵士に はねとばされ かけよった兄と私もろとも 囲まれて蹴られてしまう。


大騒ぎになり 人盛りができる。

はずかしい。くやしい。

兄と父は 懸命に私をまもろうとする。

ついには 水をかけられ 三人とも どろどろになったところで

兵士たちが離れた。


さきほどの大臣が苦い顔をしてすごすごと さがっていく。


『失礼しました』

手を差し伸べた人は よごれることも気にせず

父や私を抱き起こした。


『残念ながらまだまだこの国はこういうことがまかりとおっているのです。

 きっとあなたがここで働かれても それを変えることはできないでしょう。

 どうでしょう。月の巫女の神殿にいかれたら。。』


その人は 父と兄に神殿の話をした。

ここからは 遠いようだ。そして もう家族にも会えないかもしれない。

それでも ここよりは 彼女の力をいかせるはずだと。。。。


父たちは うつむいてしまっていた。

『お願いします』私はその人を見上げた。


『そうおっしゃると 思っていました』

はじめてあったのに この人は私をわかっているのだろうか。


この姿では帰り道にもこまるでしょうと 兵士の服を脱がせ父たちにわたした。


自分の着ていたはおりものを 私にかけ

『この国をよくしたいのです。どうぞ手をかしてください』

そういって 私に深々と頭をさげた。


はおりものについていた 金の飾りをとめなおし

『あなたにはその力があります』


そういうと

私たちが 去っていくまで ずっと にこやかに見送っていた。

何度振り返っても ずっと ずっと

その人は わたしたちを

いえ 私を 見送っていた。





この金飾りをみるたび あの人を思い出す。

そして 志は同じなのだと。たとえ離れていてもみている未来は同じなのだと。



『よし、もう一度。みんなを説得してみよう』

急に 金飾りの巫女がたちあがるもんだから

不覚にも ころがってしまった。。。。

『あら、ごめん!』


巫女は もう一度 金飾りを にぎりしめると

大きくうなづいて 

ふりかえりもせず 

颯爽と 歩いていった。


ああ また なにか 新しいことが はじまるんだね。

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