第2話 上弦の月の巫女〜魔法使い〜

破けた服があると 彼女は 飛んできた。

ぼろぼろにみえた服も彼女の手にかかると

あっという間に もとどおりどころか ちがう服になっていた。


けんかがあると 彼女は 飛んできた。

喧嘩両成敗。どちらの話も聞き、

どちらにも意見をして その場を丸くおさめていた。


新月の巫女ほど 孤立しないが

彼女のプライドの高さも すてたもんじゃない。

なのに 

自分のことなら 我慢するのに

人のこととなると すぐもらい泣きをする。


けっきょく まじめだから

ふざけすぎる 満月の巫女には いつもおどろかされているのに

人一倍 大きな声で笑うから ほんとは楽しんでいるのかどうか

わからなくなる。

いや でも 満月の巫女といるときの彼女はなんだかいつも楽しそうだ。


正義感が強すぎて 

人に厳しいから 煙たがられたりもするけど

けっきょくのところ 

判断が欲しい人は 彼女に 頼ってくる。


計画を細かくたてて 冷静に判断しているのかとおもいきや

実行のときには あわててしまって 詰めが甘かったりもする。



いつも偉そうな新月の巫女には 先頭きって反発するから

下弦の月の巫女に 『走りすぎてるよ』って なだめられたりもする。



クールかと思うと

熱血漢で

いつも みんなのバランスをとろうと はしりまわっている。


でもこれだけはいえる。

彼女の手にかかると こわれていたものが なんだか素敵になるのだ。


だから

猫は 彼女をこうよんでいた 上弦の月の魔法使いの巫女と。


〜〜〜

彼女は 猫と遊ぶのがうまい。

いい感じに かまってくれて

いやなときは ほっておいてくれる。


だから なんとなく 気づけば 彼女の横にいることが多かった。


彼女は 外の話をよくしてくれる。

こんなお店があって

こんな人がいて

こんな恋をした。って。


彼女には 幼なじみが二人いた。

二人とも とても 『いいやつ』

彼女は 二人が大好きだった。二人も彼女が大好きだった。


でも ある日。背の高いほうの人とくちづけをした。

その人といると 胸がどきどきしたから。

その人の笑顔を ずっとみていたいと 思ったから。



その日から

三人は 二人にかわった。

いつものあの店も いつものあの丘も いつものあの場所すべてが

いつも 二人になった。


私は こんなこと 望んでいたのだろうか。

もちろん 二人も楽しい。

二人で見る風景は 今までとちがう。特別。

なんだか きらきらしていて

自分まで きらきらしているように思えた。



『じゃあ さきにかえる』と

さっていく あいつの後ろ姿が さみしげでも

しょうがないと思えた。



三人の時間も 時々あって

いつもとおなじように 話しているのに

いつもとはちがう空気が流れていた。


昔のように できないのかと

自分で 悩んだりもした。

あいつに 恋人ができれば もしかしたら

また 今度は 四人で 昔のように

あえるかとも おもった。


でも あいつは いつまでも 一人で帰っていった。




背の高い人は いつも やさしかったけれど

いつも 答えがなかった。

抱きしめてくれたけど 『愛してる』といってはくれなかった。

不安になったりはするけど

その人の瞳には 自分がうつっているって知っていたから

それで いいんだと 思った。



あいつはいつも 笑顔でそばにやってきた。


おもしろいことをいって ばかなことをいって

下品なことをいって 私を笑わせてくれる。


そして 言った。『あいしている』と。


〜〜〜


いつまでも 三人なんて無理なのはわかっていた。

愛しているのは あの人だと わかっていた。

それでも なぜ あいつの 涙に こんなにくるしいのかわからない。


私は いやな女だ。


ただ 子どものころのように また 三人で。

なにも 考えずに また 三人で。



ちがう人を好きになればよかった。

あの人でも あいつでも ない人を。

そうすれば きっと まだ 三人で。。。

いえ ちがう。

永遠なんて 無理なんだ。

いつも けんかの仲裁は 得意だったのに。

誰とでも なかよくなれると思っていたのに

こんなときは その魔法が使えない。


それでも 望まずにはいられない。

あの時の あの私たちを。


とまどい まよう私に あの人はやさしかった。

すべて みえていたはずなのに。


とまどい まよう私に あいつはやさしかった。

すべて うけとめているかのように。


そんな二人に愛されて

もっと 大人になれば また 三人の関係も変わるかとおもっていた。



あの日までは。



大雨の日だった。

私は 川辺で 足をとられて おぼれてしまった。

助けられて 気づいたのは ベットの上だった。

死にかけていたらしい。


あの人は 雨のための仕事で こられなかった。

そう それはしかたない。 だって 必要な仕事だから。


あいつは 青い顔で 飛び込んできて 私の無事を確認すると

今度は 飛び出していった。


二人が翌日起きられないほど 大げんかしたのを知ったのは

翌朝だった。


このままじゃあ だめだ。

私も あの人も あいつも。みんなこわれてしまう。



二人の傷がまだいえないうちに

私は ここへやってきた。

大雨のあとの 青空の下

さよならも 言わずに。


いつか また 昔のように 三人で笑える日がくると 信じてる。

だって 私の大好きな二人だもの。

大切な二人だから。



魔法使いの巫女は うまいぐあいに

かゆいところを 爪をたてて かいてくれながら

にっこり 笑った。


このまま あの人が好きなのか

あいつのことが好きになるのか

それとも 別の 誰かに 恋をするのか

そんなことは わからないけど。


『今はこれがいちばんいいと 思うから』


そういうと 猫を抱き寄せて

頬ずりした。

『ね。夜』


満月が 輝く空へと 高々と もちあげてみせる。


にゃあ。 

ああ そうだね。きっと。

君は 魔法使いなんだから。

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