曲がり角

柚月ゆうむ

曲がり角

 爽やかな朝。雀達のさえずりが聞こえる中、とある一軒家に怒号が響き渡った。

「どうして起こしてくれなかったのよ〜。もう八時過ぎてるじゃない!」

 階段を駆け下りた一ノ瀬愛美は、台所にいる母親に叫んだ。

「何度も起こしたわよ〜」少し煩わしそうに母親は答えた。愛美は、母親の答えに頬を膨らませながらも、大急ぎで支度を始め、五分と掛からず家を飛び出した。もちろんパンをくわえて。気をつけて行くのよ、という母親の言葉を軽く無視し、愛美は駆け出す。

 愛美の通う桜ヶ丘学園は、今日から新学期を迎える。そのため、愛美は絶対に遅刻したくなかった。初日から遅刻という醜態をさらしたくはなかった。

 愛美の家から桜ヶ丘学園までは、歩いて十五分くらいの距離がある。自転車を使いたいところだが、学園は自転車通学を禁止しているため、愛美は徒歩で通っている。

授業開始のチャイムが鳴るまで十分を切ってしまっている。愛美は全力で走った。途中、通行人に何度かぶつかりそうになったが、そんなことを気にしている暇はない。一刻も早く学園に辿り着かなければならない。その思いだけが、愛美を支配していた。

愛美の前に十字路が見えてきた。あの十字路を直進すれば、学園はすぐそこだ。愛美はスパートかけ、勢いよく十字路に飛び出そうとした。しかし、その瞬間、愛美の体は弾き返された。誰かとぶつかったのだ。

「いたたたた…ちょっと、気をつけなさ―――」

 男は血を流して倒れていた。どうやらぶつかったショックで道路に投げ出され、自動車に轢かれたらしい。その自動車は急にハンドルを切ったせいか、電柱に衝突し、ヘッドライトの破片が飛び散っている。

「えっ、ちょ、あれ、なんで、そんな……どうしてこうなっちゃったの〜」

 愛美の声は、閑静な住宅街にこだまし、空の彼方へと消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

曲がり角 柚月ゆうむ @yuzumoon12

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ