Turn261.魔界演奏家『異世界の敵を前に』

──べべンッ!


 何か問題が起こり、ドリェンが自分からグラハムを遠ざけてくれようとしてくれたことは、当のグラハムも悟っていた。

──しかし、結局はグラハムもそのままドリェンを見捨てることなど出来ないのである。気付かれないようにこっそりと、後をつけて来たのだ。

 丘の上にある茂みの中に身を隠し、グラハムはドリェンのために三味線を奏でた。


 戦火の音──。


 特定の魔物の潜在能力を解放し、能力を底上げする演奏だ。


「ウガァアァアアアッ!」


 オーガ族の本性を解放したドリェンの咆哮が、森中に響き渡る。

 グラハムの音色は上手くドリェンと調和し、その能力を引き出すことに成功した。


 グラハムはほくそ笑んだ。こうなったドリェンは、最早誰にも止めることはできないのである。敵を殲滅するまで、ドリェンは止まることはない。

 相手の人間が命を落とすのも時間の問題であろう──。


「見付けたのね!」


 突然声がして、グラハムはハッとなった。

 誰かの足音がこちらに近付いてきて、そちらに顔を向けた。

「演奏が聞こえて来たから近くに居ると思ったら、案の定なのね! 勇者様を苦しめる魔物……ついに、見付けたのね!」

 ピピリ・ガーデンがポーズを決めて、ビシッとグラハムを指差す。

「勇者様……? どうやら、勇者の手の者に見付かっちまったらしいでやんすね……」

「観念するのね!」

「ふふ……」

 追い詰められているはずのグラハムだが、余裕の笑みを浮かべている。

「観念するわけがないでやんしょう。勇者も……お前の仲間も、これで終わりでやんすから」

 グラハムが何事かを企てているようだったので、ピピリは警戒して身構えた。


「『痺レロ!』」

──グラハムは叫んだ。


「……なのね?」

──しかし、何事も起こらない。

 グラハムの放った言葉になんの効力もなく、拍子抜けしたピピリは肩を竦めるのであった。

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