Turn260.剣聖『オーガの覚醒』

──ベベンッ!


 邪眼のグラハムが三味線を奏でると、ドリェンの身体に異変が起こり始める。

 ドリェンはプルプルと体を痙攣させた。


──ベベンッ!


 グラハムが三味線を鳴らすたびに、ドリェンの肉体は肥大化していった。筋肉が膨張し、巨大化していく──。


「な、なんだ、これは……?」

 ドリェンと対峙していたアルギバーが、突然の変化に目を丸くする。

 振り下ろしたその刃はドリェンの皮膚を通らず、弾かれてしまった。


──フフフと、ドリェンが笑う。

「僕はねぇ……オーガ族の末裔なんですよ。先生の力で、奥底に封じ込められていた僕の本来の力が……解放されていくぅうううぅうう!」

 本来の力が引き出されたドリェンの気分は高揚しているようだった。


──べべべンッ!


「ガァアァアアァアァアアッ!」

──細身であったドリェンの肉体が膨れ上がり、筋骨隆々な大男へと姿が変わっていく。覚醒したドリェンは獣の如く、野生に満ちた咆哮を上げた。


 やがて、アルギバーの前に立つドリェンの身の丈は元の数倍となっていた。

「ウガァアアァァアアッ!」

 丸太のように太く膨れた腕をドリェンが振るう。

 アルギバーはそれを跳んで横に躱す──。


──ガシャーンッ!


 ずぶとい大木が一撃で薙ぎ倒され、森の鳥獣たちがざわめき立つ。


「ガァアァァアアッ!」

 ドリェンの猛攻はそれだけではなく止まらない。

 標的を見失ったかのように──闇雲に、周囲に攻撃を繰り出し始めた。

 森中の木が倒され、煙が上がる──。

 視界が悪くなり、砂埃でアルギバーは思わず咳き込んでしまう。


「ガァアァァアアッ!」

 砂煙の中、エリンゲの太い腕が伸びてくる。

 咄嗟に反応したアルギバーは横に飛んでそれを回避する。

「ウガァアアアァッ!」

 砂煙に浮かび上がった巨体が、すぐさまアルギバーとの間合いを詰めてきた。


──べべンッ!


「うわぁっ!?」

 ドリェンは完全にアルギバーを捕捉しているようだ。横殴りに振るった腕にアルギバーはぶち当たり、衝撃で飛ばされてしまう。

「わぁあああぁああ!」

 攻撃を食らって吹き飛んだアルギバーは、木々を薙ぎ倒しながら森の中を転げていった。

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