Turn262.勇者『転落』
次いで、僕の番──。
残りは191点だ。
先行の松葉チームは174点──。
まだまだゼロまでは遠い気がしたが、さっきの20 のトリプルなんてこともあるので大幅に点数を減らせることもあるようだ。
何より、的に当てなければお話にならない。集中して、矢を真ん中に当てなければ──。
集中──。
──僕の耳に、周囲の雑音が聞こえなくなった。
音が消え、意識の全てが──ダーツの的へと向けられる。
──ところが、不意に目が霞んだ。
なんだかその的が──グニャグニャと波打っているように見え始めた。
──負けない!
僕は心の中で強くそう思い、的に向かってダーツを放った。
──トゥトゥンッ!
ど真ん中に命中する。
続いて第二投目を手に持ち、狙いを定める。
──シュッ!
──トゥトゥンッ!
真ん中は外れたが、『20』の枠内に突き刺さる。
最後の一投を手に持ち、振り被る。
──『痺レロ』
何たるタイミングか。
声がしたかと思えば、手がジィンとなる。
それでも僕は負けじと手を振るい、ダーツの矢を飛ばした。
矢は弧を描きながら的を目指して飛んでいく。
そして──。
──トゥルンッ!
狙いが外れ、矢が突き刺さったのはダーツボードの『11』であった。
「くっ……!」
僕はその結果を見る前に、手足の痺れを感じてその場に膝をついてしまう。
「大丈夫?」
僕の様子が可笑しいので聖愛が心配して駆け寄って来た。
「う、うん……いや……」
強がって頷いてはみせたが、まるで電気でも流れているかのようなビリビリとした痺れがしばらく続いた。
聖愛に手を借りながら移動した僕は椅子に座って堪え忍んだ。しばらくそれは続いたが──徐々に、その痛みはおさまっていった。
「……フンッ……」
松葉は僕の代わりにダーツを抜き、ボタンを押しながら鼻を鳴らした。
松葉は面白くなさそうな顔をしていたが、勝手にゲームを進めていた。
スローラインに立ち、プレイに集中し始めている。
僕は手の平を見詰めた。
──また、不可解な現象が起こった。
誰かに未知の力で攻撃されたような不穏な気配。
──トゥルルルンッ!
電子音がして、僕は顔を上げた。
ボードの中央にダーツが三本──松葉が放った矢は見事に中心を貫いていた。
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