Turn257.勇者『決戦はダーツで』
松葉が先導して、僕らを案内したのは二階にあるダーツ場であった。これまでの明るい雰囲気は違い、フロアー全体が暗めの照明になっていた。
松葉は慣れたようにカウンターへ向かうと受け付けを済ませ、ダーツを借りた。
「……こっちだ。行こうよ……」
松葉に案内されるまま僕らは台の前へと向かった。
何となく松葉に従ってここまで来てしまったが、良かったのだろうか。そもそも、二人がダーツに興味があるのかすら分からない。
「私、ダーツなんて初めてだなぁ〜」
呑気な紫亜はニコニコと嬉しそうにしている。──どうやらいらぬ心配であったようだ。初めてのダーツに二人は浮かれていた。
松葉がコインを入れ、ボタンを押して操作をする。
「……ゼロワンゲームでいいかなぁ? 501……いや、301でいいか……」
ボソボソと松葉が呟くが、専門用語ばかりで何を言っているのか理解ができない。設定は完全に松葉に任せることとなる。
「どういうルール?」
聖愛に見詰められ、松葉は恥ずかしそうに顔を伏せる。視線が合っただけで頬が紅潮し、モジモジとしている。
「……順番に三投して、三百一点を先に取った方が勝ちさ。……ダーツボードに数字が書いてあるのは見えるかい?」
そう言いながら、松葉が円形のダーツボードを指差す。確かに『1』から『20』の様々な数字が、円周に書かれている。
「……ダーツが刺さったところの点数をプラスしていって、合計が301になれば良いというわけさ……」
「なるほどね」
何となくルールが分かったような気もして、僕は頷いた。兎に角、的にダーツを当てて点数を稼いでいけば良いということだろう──などと、浅はかな解釈で納得する。
「……じゃあ、チームを分けてやろうか……。二対二で順番に投げてやろう……」
「うーん、良くわかんないけど、それがいいならそうしましょうか」
紫亜はイマイチ理解が出来ていないらしく、完全に流れに身を任せている。
「じゃあ、私と紫亜でジャンケンをしてどっちにつくか決めましょうか」
「そうね!」
ウンウンと頷き、紫亜も拳を握る。
必然的に罰ゲーム勝負を行っている僕と松葉は別チームに分けさせられる。
要は、紫亜と聖愛がどっちに付くか、だ。
掛け声と共に二人が出した手は──。
聖愛がパー、紫亜がチョキであった。
「やったー!」
勝った紫亜から思わずガッツポーズが出る。明らかに経験者である松葉につく方が優位であろうから、紫亜は間髪入れずに「松葉君チームに入るわ!」と宣言した。
自動的に、聖愛は僕のチームに配属されることとなる。
「よろしくね」
聖愛はそこまで勝負に拘っている様子もなく、劣勢である僕と同じチームでも平然としていた。
聖愛に挨拶されて、会釈を返す。
ふと何やら視線を感じて振り向くと、松葉が鬼のような形相を浮かべてこちらを睨んでいた。
僕が聖愛と近しい位置に来たのが気に食わないようだ。──しかし、仕方がないじゃないか。これは不可抗力なのだから……。
「……罰ゲーム……分かってるよね……?」
ボソボソと松葉が僕だけに聞こえるような声で、確認するように言ってきた。
「勿論。そっちこそ、僕が勝ったら聖愛に近付かないでくれよ。随分と迷惑しているみたいだから」
松葉が密かに行っていた凶行に、聖愛はかなり恐怖を抱いていた。
そのことを思い浮かべると、罰ゲーム関係なしに松葉には悔い改めて貰いたいものだが、穏便に事を済ませられるのであればそれに越したことはない。
松葉から提案してきたことなのだから、後になって撤回などするような格好の悪い真似は流石にしないだろう。
正攻法で、松葉には手を引いて貰うことにした。
「なに? 罰ゲームは決まったの?」
内緒話をしている僕らのことが目に止まったようで、紫亜が横から尋ねてきた。
嘘をついたところで仕方がないので、僕は「うん、まあね」と頷いてみせた。
「え、なにになったの?」
「そりゃあ……」
何と答えたものかと困って、松葉に視線を向けてパスを送る。
「……それは、終わったら分かるよ……」
はぐらかすように松葉は言うとダーツを手に取った。
「始めるとしよう」
そして、床に引いてあるスローラインの上に松葉は立った。
──どうやら、ここから投げるようだ。それを見て、僕はフムフムと勉強をした。
「……それじゃあ、行かせてもらうよ……」
不敵に笑った松葉はダーツを構え──そして、投げた。
──ビ、ドゥドゥン!
──ドゥーン!
──ドゥーン!
ダーツの矢がボードに刺さるたびに機械音が鳴った。
松葉が放った矢は二本、ど真ん中に突き刺さった。一つは少しズレて『5』の枠内に入っている。
合計105点──モニターに表示されている数字が『196』に減少した。
松葉は悔しそうに歯噛みする。
「……狙いが少しズレたか……。まぁ、いいだろう……」
松葉は納得いかない様子で、ブツブツと文句を口にしながらボードに刺さった矢を自分で引き抜いた。
全部引き抜いた後、松葉はボタンを押す。
『Player 2』とモニターに表示される。
「……さぁ、次はそちらだよ……」
全てのダーツを回収してテーブルに戻って来た松葉が、手を振るった。両チーム交代交代に投げていくという話だから、今度は僕らの番だ。
僕と聖愛は顔を見合わせた。
どちらが先に行くか、順番を決めていなかった。
「じゃあ……お先に行かせて貰おうかしら」
動いたのは聖愛で、テーブルの上のダーツを手に取ると、腕捲りをしながらスローラインへと向かって行った。
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