Turn252.剣聖『伝書鳩』
──クルックルゥッ!
お姫様からの文を受け取り、ピピリは大役を果たした伝書鳩を労うようにその頭を撫でた。
「ありがとね!」
ピピリが手を掲げると、そこにとまっていた伝書鳩はバタバタと羽ばたいて空へと飛んで行った。ロディッツィオの元へ──お城へ帰って行くのだろう。
ここはオルズゴの町──逃亡した演奏家の後を追って野営地を離れたピピリとアルギバーは、順々に町を巡っているところであった。
町人に聞き込み調査をしていたアルギバーが戻ってくるなり、ピピリは「朗報なのね」と伝える。
自身の頬に届いたばかりの文を当てて笑みを浮かべるピピリ──アルギバーは訝しげな顔になる。
「……それは?」
「お姫様からの伝令なのね。ニュウ様が敵に繋がる情報を突き止めて下さったのね」
「へー。……で、その情報っていうのは?」
アルギバーに聞かれ、ピピリは手紙を広げた。
「『噴水』『お花』『ホトトギス』……そして、それが指している近場の場所はストルディアの町らしいのね」
「ストルディアの町?」
「そうなのね」
ピピリは頷くと、今度は地図を取り出して石段の上に開いた。
「今居るこのオルズゴのから山を越えて、西北に進んだところにストルディアの町があるのね。一旦、野営地の方に戻らなきゃならないのね」
──どうやら、ピピリたちは演奏家の後を追ったつもりで逆方向に来てしまっていたらしい。
「だが……そこに居るとは限らないだろう?」
アルギバーは余り乗り気でないようだが、ピピリは指を振るった。
「この大陸に噴水のある町はストルディアの町しかないのね。演奏家が逃げたといっても、急に海を渡って遥か彼方の地まで飛ぶことはできないはずなのね。つまり……」
「なるほどねぇ。この大陸に一つしかない噴水のある町に、潜伏している可能性が高い、と?」
「その通りなのね!」
ピピリは自信満々に胸を張ったものである。
「……なら、早速、行こうとしようぜ」
早々に動き出そうとしたアルギバーを、ピピリは慌てて止めた。
「まぁ気持ちは分かるのね。……でも、前の戦闘の傷も癒えていないのだから、準備を整えてからの方が良いのね!」
すると、アルギバーが呆れた顔になる。
「早くしないと逃げられちまうかもしれないだろう? 折角見付けた手掛かりなんだ。ウカウカなんてしていられないさ」
「それはまぁ、そうかもしれないのね……」
だからといって、アルギバーが負っているダメージ量や蓄積された疲労度を見過ごすわけにもいかなかった。次の戦闘に堪えられるかどうかも心配である。とても万全の態勢とは言えなかった。
「でも、それで相手にむざむざやられちゃ困るのね」
「そんなつもりは、ねぇさ」
アルギバーは大仰にストレッチを始めた。
「ほら、ご覧の通り。体は何ともないさ。いいから、行くぞ!」
「はぁ……」と、ピピリは大きく溜め息を吐いた。
アルギバーにも頑固なところがあるらしく、なんと言っても聞き耳を持ってくれない。──ならば、仕方がないか。
ピピリは諦めて、ストルディアの町に向かうことにした。何よりお姫様からの命令なのである。真っ先に動きたいのはピピリの方であるから、アルギバーが良いのならそれはそれで良かった。
「なら行くのね。怪我や疲れを理由に、足を引っ張らないで欲しいのね」
「いや、だからそれはこっちの台詞だから! 文句があるなら戦闘に参加しろよ!」
耳を塞いでアルギバーからの反論を無視したピピリは歩き出し、ストルディアの町へ向かって歩き出したのであった。
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