Turn243.魔界演奏家『心の動揺に音の乱れ』

「な……なんでやんすか……これは……!?」


──ベベベベンッ! チャカチャカチャラ……。

 滑らかに指を滑らせ三味線を奏でていくグラハム──が、しかし──。


──キュイッ!


 疲労のせいであろうか──。

 全身の機能が突然に停止する。立っていることもままならなくなり、グラハムは両手を地面についた。

「せ、先生?」

 倒れたグラハムに、ドリェンが慌てて駆け寄った。

 グラハムは自力で起き上がり、頭を振るう。

「いや、すまねぇでやんす。大丈夫でやんすよ……」

 そうは言ったものの、倒れた原因も分からずグラハムは困惑していた。


──きゃぁあぁあああぁっ!


 そんなグラハムの耳に遠くから聞こえてきたのは、コトハからの悲鳴だ。アルギバーから斬撃が放たれ、それを受けたコトハが地面に倒れた音がする。


「……なっ!? あ、しまったでやんす!」

 グラハムらすぐに三味線を持ち直した。指を動かし、再び音色を奏でていく。


──ベベン、ベンッ!


 しかし、微かに──。


『倒ス』


──そんな声が耳に聞こえてきたような気がした。


「あ……」

 頭がクラクラし、バランスを崩してグラハムは倒れてしまう。

──大事な場面で何たることか。

 反動で三味線を手放し、岩場に叩きつけてしまう。

 慌ててグラハムは立ち上がろうとした。


『倒ス』


──その声は、いったいどこから聞こえてきているのか。辺りを見回すが、誰の姿もない。

「な、なんでやんす? どういうことでやんすか?」

 すっかり調子が可笑しくなったグラハムは動揺していたが、コトハへの援護を緩めるわけにはいかない。早く復帰して演奏を再開しなければ──。


「……先生ぇえええぇぇえっ!」

 三味線に手を伸ばそうとしていたグラハムの耳に、コトハの断末魔の叫びが聞こえてきたのであった。

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