Turn242.剣聖『調子が狂う』
アルギバーが振るった太刀はコトハの胴体を凹ませた。粘液状のコトハには物理攻撃は効かず、相変わらず平然とした顔をしていた。
先程からその繰り返しである。アルギバーの攻撃はまったくコトハに通用しない。
アルギバーは背後に跳んで、コトハとの間合いを取った。
「スライムの割にはなかなかやるじゃないか……」
下級モンスターであるスライムなど、本来は一撃で葬り去ることが可能なはずであるのにコトハはしぶとかった。
ここまでレベルが高く、変異したスライムと出会うのはアルギバーも初めてのようで戦い方が分からず手を焼いていた。
「……飲み込んであげるわ……」
コトハが手を掲げる。
──ベベンベンベンッ!
聴こえてくる三味線の音色が、一層激しくなる。それで何らかのバフが掛かっているようで、コトハの腕は呼応するかのように肥大化していった。
アルギバーは身構えて衝撃に備えた。
防御したところで取り込まれてしまうだけのような気もするが、かと言って攻撃範囲が広く回避するのも難しそうだ。
「……さようなら」
コトハは呟き、巨大な腕を振り下ろした。
アルギバーは歯を食いしばる。
──いや、守っていても仕方がない。ここは攻め時であると脳内が咄嗟に発想を変えた。
「電雷鳴撃っ!」
雷属性を纏った刃を、アルギバーは向かってきたコトハの腕に放った。
どうせ効きはしない──。
どこかで、そんな弱音も過ぎった。
──しかし、この攻撃が通らなければ、アルギバーは振り下ろされたコトハの攻撃をまともに食らって体内に取り込まれてしまうことであろう。
──ベベンッ ……ゴキュウッ!
異変が起きた──。
それまで軽快に鳴っていた三味線の音色に、突然不協和音が混じる。
「……えっ……?」
それと同時に、コトハは目を見開いた。
──ブシューッ!
コトハが振り下ろした腕の付け根を、アルギバーが放った雷の刃が切り裂いた。
「な……なんだっ!?」
これには、やったアルギバーの方が驚いてしまう。
これまで傷すらつけられなかったコトハの腕を、一撃で切り離すことができたのだ。しかも、それだけではない──。
「きゃぁぁぁあああぁ!」
全身をビリビリと電流が駆け巡り、コトハは悲鳴を上げたものである。
雷属性の攻撃がコトハに通用したようだ。
コトハは痺れからその場に膝を付き、千切れた腕の付け根を押さえた。
地面にはコトハの切られた腕先が液体化して広がっていく。地面に吸収され、湿った地面が乾いていく。──これまでとは違って、コトハの腕が再生することはなかった。
明らかな異変が、コトハの身に起こっていた──。
コトハはある一点を見詰めた。
「……先生……どういうことですか……?」
──ベンッ! べべンッ!
コトハの呟きが聞こえたのか、乱れた演奏が再開する。
──しかし、一番困惑していたのは、その演奏を行っていた当のグラハムであったことをこの場の誰も知らない。その心の動揺が演奏に表れ、徐々に雲行きが怪しくなっていくのであった。
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