Turn230.魔物『野営地に起こる異変』
──ベンッ……ベンッ、ベンッ……。
風に乗ってどこからか、微かに楽器の音色のようなものが聴こえてきた。
「ああん……? なんだ……?」
サイクロプスのエリンゲは不愉快そうに顔を顰めて顔をキョロキョロと動かした。音の出所を突き止めようとしているようだが、崖の岩場に反響してあちこちから音が聴こえて来るので心音地を見付けるのは難しそうだ。ピピリも辺りを見回したが、それらしきものは目に止まらない。
「この不愉快な音は……アイツじゃねぇか!」
エリンゲには、その音に心当たりがあるようだ。苛立って頭を掻き毟りドシドシと地面を蹴り付けて、怒りを露わにしていた。
◆◆◆
野営地にあるバンガローの中にも、その音は聴こえてきていた。
『なんだか、変な音がするなぁ〜』
オークが囲炉裏で湯を沸かしながら呑気にボソリと呟いていた。
──ポタッ、ポタッ……。
ふと、頭の上に何か冷たいものがヒンヤリと当たったのを感じた。
水漏れであろうか──。
見上げると、天井から水が滴っていた。
『あれまぁ……雨漏りか?』
建築の心得がない魔物たちが、即席で築いた家であるから多少の欠陥は仕方ないだろう。
オークはそう楽観的に考え、後でゴーレムにでも修理して貰おうと、視線を囲炉裏に戻した。
──が、違和感がした。
雨など降っていないはずである。それなのに、どうして雨漏りをするというのか。
オークは再び天井に視線を向けた。
──ドバーッ! バシャーン!
すると天板を突き破り、大量の水の波がオーク目掛けて降り注いできた。
「うぇ〜っ! ゴボゴボ……!」
オークは水に包み込まれた。必死に抜け出そうと身を捩るが、粘液状のそれはオークの体をそこから逃してはくれなかった。
それどころか、そのままオークの体を天井裏へと引き摺り込んで行ったのである。
「ゴボゴボ……!」
水に飲まれたオークは悲鳴を上げることもできずに、天井裏へと消えていった。
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