Turn225.小悪魔『棺桶をそのままに』

『なんとか潜入できたようだな……』

 棺桶の中からホッとしたようなアルギバーの声が響いて来る。

「本当に『なんとか』なのね……。危うく見つかるところだったのね……」

 呆れたようにピピリが視線を向けるが、当然、棺桶の中に居るアルギバーにはそれには気付いていないようだ。


 オールゴーの町で情報を得たピピリたちは、魔物の群れを追って北の山へと向かった。その途中で見掛けた魔物たちに取り入り、何とか本拠地まで案内して貰えないだろうか──。そう考えた末、諜報員のピピリの変装術で魔物に化け、敵陣に乗り込むことにしたのである。

 狙い通り、魔物はピピリたちを野営地へと連れて来てくれた。

 ピピリと違って変装の心得のないアルギバーはお荷物だったので、ボロが出ないように棺桶の中に封じ込めていたのだが──それでもドジを踏んだので、危ないところであった。


──ガチャッ!

『あれ……?』

 アルギバーは内側から棺桶の蓋を開けようと押したが、何やら支えて開けられなかった。

『おい、これどうなってるんだ!』

 ガチャガチャとアルギバーが乱暴に棺桶の蓋を開けようと頑張るが、微動だにしない。

 そんなアルギバーに、ピピリは冷ややかな目を送る。

「下手に動かれて正体がバレても厄介なのね。しばらく、そこに居てもらいたいのね」

『はぁ〜!?』

 アルギバーの不満げそうな声が、棺桶の中から響く。ピピリが棺桶の蓋に鍵を掛けたらしい。

『……なら、一人で来れば良かっただろうが!』

「そうしたら、何かあった時に対処しきれないのね。戦闘は、その道のプロにお任せするのが一番なのね。だから、それまではそこに居るのね」

『お、おい! ふざけるな! なんで、鍵なんて掛けた!』

「落として扉が開いてしまっても厄介だし、中を見られても困るのね。鍵を掛けるのは、当然なのね」

 抗議の声を上げるアルギバーから、ピピリは目を逸らしてそっぽを向いた。

「ちょっと、そこらを調査してくるから、もう少し黙っていて休んでいて欲しいのね。覗き穴が二つあるから、誰か来ないか見張っておいて欲しいのね」

『こんなところでくつろげるか!』

 アルギバーは叫んだが、それ以上ピピリは相手をしてくれなかった。テントから出て行くピピリの後ろ姿を、小さな穴から覗いて見送ることしか出来なかった。

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