Turn224.小悪魔『魔物たちの野営地』
崖の谷間には、魔物の野営地が出来ていた。
様々な魔物たちの姿があり、建築を得意としたゴーレムやプラントイーターなどが木材や石材を掻き集めてきて家を建てていた。魔物たちが此処の地を占領してからものの数日しか経過していないはずだが、そこには魔物たちの町が出来上がっていた。
「はぁ……。なんなのね、これは……」
元は単なる岩場であったはずのこの崖には、見違える光景が広がっていた。突如視界に現れた魔物たちの町に、ピピリ・ガーデンも思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
『おい! そこ、確か空いていたよな?』
『ウガー!』
ガーゴイルが声を掛けると、ゴーレムが重量のある首を動かしてコクリと頷いた。
ガーゴイルは他の建物とは違う──端っこにある布製のテントを指差した。
『ここは誰も使ってないから、好きに使ってもらって構わんよ』
「え……」
木造のバンガローや石造りの建物などがあったが、その中でも一番の手抜きと思われる簡素なテントを充てがわれ、ピピリは目を瞬いてしまった。
『まさか、他に魔物が増えるとは思っていなかったからな。新しく建物が建ったら、そちらに移るといい。これまでは、ここで我慢しろ』
「分かったのね」
嫌がらせでそこを充てがわれたのでないと分かると、ピピリはホッとしたものだ。別に長居をするつもりはなく調査が終わればまたお姫様のお城に戻るのだが、いきなり目を付けられているとすれば動き難いところである。
どうやらピピリ上手く小悪魔に変身して、魔物たちを欺けているようだ。
ピピリの変身術は匠であり、簡単にはその正体を見破ることは出来ないはずだ。
もしも、ボロが出るとすれば──。
──ドシーン!
『いてっ!』
デスワームが下ろした棺の中から声が上がり、ガーゴイルが目を丸くした。
『なんだぁ……?』
ピピリは慌ててフォローを入れた。
「中身はまだ生きているから、丁重に扱って欲しいのね。せっかく生け捕りにしているのだから乱暴はやめるのね。判断は魔王様に委ねようと思ってそのままなのだから……」
『なるほどな』
うんうんと、ガーゴイルは頷いた。
ピピリは棺桶を引き摺って、それをテントの中に入れ始めた。
「後は私が面倒を見るのね。ここまで運んでくれて、どうもありがとうなのね」
そそくさとテントの中に入って行こうとするピピリを訝しげに見つつも、ガーゴイルたちは他の建物に用があったようでそちらへ向かって歩き始めた。
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