Turn220.剣聖『破壊された町』

 オールゴーの町は酷い有様であった。住人たちの多くは惨殺され、死体の山が築かれている。建物も倒壊し、多くは瓦礫の山と化していた。

──しかし、何も倒れているのは人間だけではなかった。

 その首謀者であるはずの魔物たちまでもが、死体の一員として転がっていた。

 普通の人間に魔物を倒すことは不可能である。それでも住人たちが一丸となって善戦したのか、あるいは他に魔物を倒す程の力を持った者がここに居たのか──。

 剣聖アルギバーは地面に膝をつき、地面に横たわった遺体を弔うように手を合わせた。


「こっちに来てほしいのね!」

 ピピリが声を上げたのでそちらに向かうと、建物の陰に震えている少年があった。あちこち傷を負ってはいるようだが、命に別状はないようだ。

 少年はかなりの恐怖体験をしたらしい。視線を忙しなく動かし、体もガタガタと震わせていた。アルギバーは身を屈め、少年の頭に手を置いた。

「よく頑張ったな……。辛かったろうが、無事で良かった」

 少年は黙ったまま、アルギバーの顔を見詰めた。口をパクパクと動かして、何事かを伝えようとするが声は出ない。

「どうするのね?」

「落ち着くまではそっとしておいてやろう。今すぐ根掘り葉掘り聞き出して、思い出させてやるのも可哀想だしな」

「それはまぁ……そうかもしれないのね……」

 ピピリもそれに賛成する。目の前で起こった凄惨な記憶を、今すぐに思い出させるのは少年にとっても酷であろう。

「他にも生きている人が居ないか、見てくるのね。もしかしたら、まだ助かるような人も居るかもしれないのね」

「ああ……。そうだな……」

 ピピリの後に続いて立ち上がろうとしたアルギバーの腕を、少年がガシリと掴んだ。

「……魔物だ……」

 声を震わせながら少年が呟いた。

「演奏家が……化け物たちを呼び寄せたんだ……!」

「演奏家? 楽器でも弾いていたのか?」

 アルギバーの問いに、少年はコクリと頷いた。そして、遠くに浮かんだ山を指差す。

「北の山……そこに、魔物たちは移動していったよ……」

 そこまで言うと少年は身震いし俯いてしまう。怖い記憶が蘇ってきたのか、ガタガタと体を震わせた。

「……ありがとう。後は、任せてくれ」

 アルギバーは少年に優しく微笑みかけると、振り向いた。顔を上げたアルギバーの表情は険しい。

──ピピリと目を合わせ、そして頷き合う。


 魔物たちが移動したという北の山──そこが次の目的地になるだろう。

 他に生存者が居ないか町の中を探し回り、次いで北の山へと向かうことにしたのであった。

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