Turn221.小悪魔『発見される』

 北の山の中には、おそらく人間たちには予想外の光景が広がっていたであろう。

 山の谷間──崖下に魔物の野営地が築かれていた。そこを拠点にして、オールゴーの町を襲った魔物たちがグラハムたちの行方を追っていた。

「絶対に許さねぇ……!」

 同胞を失ったサイクロプスのエリンゲは酷く憤慨し、魔物たちに周囲の捜索を行わせていた。


 山狩をしているモンタスターたちが険しい山道を歩いていると──ふと前方の草むらが、ガサゴソと揺れ動いた。ガーゴイル、デスワームは警戒を強め、身構えたものである。


──ガサガサッ!

──ガサッ!


 草むらから飛び出してきたのは──頭から角が突き出て背中から羽が生えた小悪魔のように見えた。

『なんだ、貴様は!?』

 驚いたガーゴイルがサーベルの刃を向けると、小悪魔は「ヒイッ!」と悲鳴を上げ、両手を上げた。

「あ、あんたたちこそ、何者なのね!? 私は、魔王様の使いでここを通っただけなのね!」

『魔王様……だと……?』

 魔王という言葉に反応したガーゴイルが眉をピクリと動かした。魔物たちには『魔王』の名は効果的であるらしく、それだけでガーゴイルはサーベルを下ろした。

「そうなのね……。あれを連行していたところだったのね」

 そう言って、小悪魔は後方を顎でしゃくって指した。大きな棺桶が一つ、地面に横たわっている。

『……なんだ、あれは?』

「勇者の仲間を封じ込めてきたのね。魔王様に献上しようと、ここまで運んできたのよ」

『ほほぅ……』と、ガーゴイルはデスワームに目配せをした。デスワームはガーゴイルの意図を汲んだようで、その棺を背中に乗せて運び始める。

「あっ、ちょっと! 何をするのね!?」

 勝手に動かそうとするデスワームに、小悪魔は抗議の声を上げた。

「丁重に扱うのね! 封じているだけだから、棺に傷が付けばすぐに出てきてしまうのね!」

『安心しろ。すぐ近くに野営地があるから、そこまで運んでやるよ。それより……』

 ガーゴイルは言葉を切り、小悪魔たちが来た方角に視線を向ける。

『あっちに、老若男女の三人組を見なかったか?』

「え……? 見てないのね。あっちには、誰もいなかったよ」

 老若男女の三人組とは、随分と大雑把な質問である。何処にでも居そうな面子に小悪魔の頭には色々な人物像がうかんだようだが、それらを払拭するかのように首を振るう。

『ふん。そうか……』

 ガーゴイルは頷くと、デスワームに視線を向ける。

『そんなら、こっちの方向は白だな。こりゃあ、無駄に歩かないで済みそうだ。俺らも一度、野営地に戻って他からのところからの報告を待つとしようぜ』

 デスワームもガーゴイルの意見に同意見のようで頷いた。無駄な体力は使いたくないようである。

『よし。こっちだ! おい、新入り。ついてこい』

「あ、はいなのね」

 ガーゴイルは背を向けて翼を羽ばたかせると、小悪魔を勝手に新人扱いして来た道を引き返していくのであった。

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