Turn219.魔界演奏家『三名様ご案内』

「勇者って生き物は、運や判断力もそれなりにある生き物のようでやんすね……」

 邪眼のグラハムは苛立ったように爪を噛んでいた。

 痛め付けてやるつもりであったが、どうやら今回も不発に終わったようだ。

 思い通りに事が進まず、さすがのグラハムも苛立っていた。

 今の所、自分が仕掛けた攻撃はことごとく勇者に回避されてしまっている。

「どうしたもんでやんすかね……」

 頭を悩ませつつ、グラハムは呟く。

「そんなら『荒レロ』ってぇのはどうでやんすかね。勇者の周りをグチャグチャに、掻き乱してやるでやんすよ」

 すかさずに、グラハムは次の言霊を放った。今度こそ、勇者に何かしらのダメージを与えられることであろう。グラハムは笑みを浮かべたものだ。


「先生……」

 ふと、ドリェンから呼び掛けられてグラハムは顔を上げた。

「どうやら、お部屋の準備が整ったようですよ」


 廊下からこちらに向かって近付いてくる足音の方向に、グラハムは顔を向ける。

「お、お待たせしました、お客様……」

 戻ってきた宿屋の亭主は息を切らしていた。

「……もういいの?」

「うん、コトハちゃん。おまたせしちゃってごめんね。一人で切り盛りしているから、色々と手が回らなくってさ……。それじゃあ、こちらになります」

 宿屋の亭主が部屋まで先立って歩いて案内してくれたので、グラハムもその後に続いて歩き出した。

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