Turn218.勇者『生存連絡』
そんな恐怖体験の後、呆然としていると携帯電話から着信音が鳴って我に返る。
手に取って画面を見ると──不知火から着信がきていた。
色々あってすっかり頭から抜けてしまっていたが、そういえば不知火の具合はどうなのだろう。
通話ボタンを押すと『こんばんはー』と、調子の変わらない不知火の呑気な声が電話越しに聞こえてきた。
「もしもし。大丈夫なの?」
『ああ、うん。なんとか無事だよ。足の骨はやっちゃったけれどもね』
不知火は気丈に振る舞いケラケラと笑っていたが、内心ではショックを受けていることが透けて見えた。強がっているような──どことなく上擦っている。
「そうか……それなら一先ずは良かったね。病院に運ばれるかも、って聞いたから心配していたんだよ」
一時は忘れてしまっていたが、改めて不知火に対する心配心が奥底から湧き上がってきたものだ。
『ごめん、ごめん。心配かけちゃって……』
ハハハと不知火は笑い声を上げた。
どうやら、僕に心配かけないようにわざわざ元気な様子を見せる為に電話をしてきてくれたらしい。
──そこでふと、不知火のトーンが変わる。
『ねぇ……あの後、何か変わったことなかった?』
「え……?」
唐突にそんな質問が飛んで来て、僕は答えに困ってしまう。車が突っ込んで来たとか工事現場の鉄パイプが落ちて来たとか先程の訪問者だとか──身の回りで変なことばかり起こってはいるが、辛い状況にある不知火にわざわざそんなことを伝える必要はないだろう。
返事に困っていると、不知火の方から言葉を続けて来た。
『実はさぁ……。あれ、足が滑って階段から落ちたんじゃなくてさ……』
言いづらそうに一旦、不知火は言葉を切る。
『誰かに押されたんだよねー』
「え……押された……?」
──それは、衝撃の告白であった。
思わず言葉を失ってしまう。
『誰に押されたのかは当然分からないよ。校内に防犯カメラがあるわけでもないから、突き止めることは難しいだろうね。それで、突き落とされる前に、後ろからこんなことを言われたんだ……』
僕は息を飲んで、次の不知火の言葉を待った。
『「彼女に近付くな」……だってさ』
それを聞いた瞬間──僕はヒンヤリと背筋に冷たいものを感じた。先程訪問してきた眼鏡の男の姿が、頭の中を過ぎる。
『……あれっ? どうしたの?』
僕からの応答がなくなり不安になったのか、不知火が尋ねてくる。
でも、僕は余りのショックに言葉を返すことができなかった。
「あいつが不知火を……」
誰とも分からぬ未知の敵──眼鏡の男に対して──沸々と怒りが込み上げてきたのであった。
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