Episode006.魔王『不思議な力』

 城内の様子を見に行ったペデロペだが、一度戻って魔王に状況を報告した。

「警報が鳴り、そちらに注目が集まっていたところで、姫君はおそらくその混乱に乗じて城を逃げ出したのでしょう」

「牢の見張りは何をしていたのだ?」

「ちょうど、看がいないタイミングを狙われたようです」

「そんなことがあるのか?」

「いえ。通常ならありませんが、奇跡的に偶然なタイミングでそれが起こってしまったようです。運の悪いことに」

「偶然だと? そんな都合の良いことが……」

 あり得ないと思いつつも、魔王は言葉を飲み込んだ。実際に捕えたはずのお姫様はそれで逃げ出してしまっているのだから認めないわけにはいかない。


「しかし、ご安心ください」

 ペデロペには何か秘策があるようである。焦りの色が伺える魔王とは対称的に平静を装っていた。

「息の掛かっている近隣の村から、姫君を捕えたとの報告が入っております。これから回収に向かいますので、ご安心ください」

「ああ、そうか……」

 それならば、心配事は何もない。単なる偶然が重なって逃げられてしまったようだが、既に事は終わっていたようだ。

 魔王はホッと胸を撫で下ろした。

 姫を魔王城に連れ帰ったなら、二度と逃げ出さないようにしっかりと拘束してしまおう。──いや、そもそも生かしておく必要がないではないか。

 息の根を止めてしまおう。

 そうすれば、居ないはずの勇者の影に怯える必要はなくなるのだから──。



 ◆◆◆



 魔王の元に届いた知らせは、最悪なものであった。

 屋敷に捕らえていたというお姫様に秘密の通路を見付けられ、取り逃がしたのだという──。

「まるで煙のように消えてしまっておりました」

 冷や汗をカキカキ、自身の失態を弁明するペデロペだが、報告を受ける魔王も冷や汗を掻いた。

「誰かが手引しているとしか思えません。こうも偶然が重なるものですか? どうにも不思議な力が働いているようにしか思えません……」

──不思議な力?

 ペデロペのその言葉が妙に引っ掛かる。

「……いや、まさかな……」

 もしも、そんな芸当ができるとすれば──思い当たる人物は一人しかいない。

──しかし、勇者は別の次元へと葬り去ったはずである。この世界に居るはずがない。

 魔王は頭に浮かんだ雑念を払うかのように激しく頭を振るうのであった。

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