Episode007.魔王『まだ余裕』

 魔王の元には続々と、不幸な知らせばかりが届けられた。

「人間の協力者が、何者かにやられたようです」

 お姫様の護衛役として魔王に刃向かった大魔導師の成れの果て──。言葉を封じ、魔法を使えなくなった彼女の監視を優秀な部下に任せていた。

 それなのに、まさか取り逃がしてしまうとは──。


 ある時には、こんな情報も入ってきた。

「姫君が、勇者の依り代となる人物を探しておるようです」

 そう言って、部下が掲げてきたのはお姫様が配布していたチラシであった。勇者の魂を肉体に降臨させてくれる依り代となる有志を募っているらしい。

──それは魔王が最も恐れていた事態であった。

 この世で唯一の脅威となる存在は勇者だけである。

 折角この次元から排除した勇者を、お姫様が何らかの方法を用いてこの世界に呼び戻してしまったとしたら──。

 魔王は唾を飲み込み、冷や汗を浮かべた。

「すぐに、そやつらをどうにかするのだ!」

 幹部であるペデロペに、すぐに妨害を施すように魔王は命じた。

「はっ! 畏まりました」

 勇者なき今、人間がどれ程の力を持とうともペデロペの足元にも及ばないだろう。

 魔王もペデロペ自身も、そう勘繰っていて些か心に余裕があった。

──鬱陶しい連中を、ペデロペがさっさと始末してくれることであろう。

 魔王は心のどこかでそう楽観視していた。

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