Turn184.勇者『喫茶店で合流』

 暇潰しのお絵描きにも飽き、鏡を呆然と見詰めていると聖愛が店にやって来た。

 入り口の扉のベルが鳴ったので、自然とそちらに顔を向けると僕に気が付いた聖愛が手を振ってきた。

「退院おめでとう!」

 嬉しそうに笑みを浮かべながら、聖愛は僕のところまで足早にやって来た。

 そんな彼女の姿を見て、自然と僕の顔から笑みが溢れる。

「うん、ありがとう。ごめんね、呼び出したりして」

「いいえ、構わないわよ。ちょうど息抜きがしたかったところだし……」

 聖愛が向かいの席に座ったところで、お店の老婆がトレイに水とおしぼりを運んで持ってきてくれた。テーブルにそれらを置くと「ご注文はありますかい?」と尋ねタ。

「ホットコーヒー下さい」

「あぁ、僕もおかわりお願いします」

「かしこまりました」

 ペコリと老婆は頭を下げ、カウンターの中へと引っ込んで行く。

 もうかれこれ一時間近くは席を占領しているというのに、老婆は悪い顔一つしなかった。勿論、飲み物や食べ物はその分、頼んでいるつもりだが。

 他にお客がいないことで、大目に見てくれているのだろう。


「ずいぶんな穴場を見付けたみたいね」

 店内を見渡しながら聖愛が呟く。

「うん。まぁね……」

 頷きながら聖愛に顔を向ける。

 ふと、その視線が気になった。僕が先程まで描いていた落書き──メモ帳の絵を興味興味深そうに見ていた。

「何を描いているの?」

「あぁ、これかい……」

 伏せておくのを忘れて、公開してしまった。

 気恥ずかしくもあったが、注文の品がやって来るまでの余談とばかりに僕はメモ帳の絵を聖愛へと見せてやった。

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