Turn185.元賢者『停止した時間の中で』

 鏡の中に手を入れたニュウは、不思議な感覚にとらわれたものである。

「これは……?」

 違和感があり、手を止めて周囲を見回す。

──まるで時が止まっているかのように全てのものが静止していた。


 部屋に雪崩込んできたアンデッドのモンスター──。

 お姫様や兵士たちに襲い掛かる魑魅魍魎──。

 砦の外で雄叫びを上げる軍勢たち──。


──その全てが、動きを止めていた。


「いったい、何が起きているというの……?」

 闇のオーラによって魔力を最大限に高めて覚醒したニュウだけが、唯一この世界で動けている人間であった。


「……っ!」

 鏡に突っ込んだ手先が何かを掴んだ瞬間──ニュウは、強大な力を感じて顔を顰めたものである。

 気を抜けば、逆に鏡の中に引き込まれてしまいそうになる。

 取り出すのにも一苦労なほどの重量を感じた。

 もしや、この窮地から打開できるような強力な武器でもあるのではないか──。

 ニュウは必死にそれを鏡から取り出した。


 みんなを助けたい──みんなに償いをしたい──誰も失いたくない──。

 そんな思いが強くなる。

──しかし、相手は五百万の軍勢なのだ。中途半端な武器を手に入れたところで、殲滅することは難しいだろう。

「助けて……。神様、精霊様……勇者様ッ!」

 ニュウは叫び、そして必死に鏡の中から取り出したものは──七色に発光する球が側面に嵌め込まれている歪な砲台であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る