Turn183.元賢者『雪崩れ込む不死身の軍勢』
砦の門番であるブラックシャドウナイトたちは不死の軍勢の圧倒的な数にも物怖じせず、武器を振るっていた。
ところが、突然に不死身の軍勢が活気付き、一気に雪崩れこんできたのである。勢いに抗うことができず、押し退けられて倒れたブラックシャドウナイトたちは雑踏に飲み込まれて姿を消してしまう。
──アァアァアァアアッ!
門の扉が閉まっており、非力なゾンビたちには簡単に破ることはできないようだ。乱暴にガシガシと叩くが、分厚い扉はビクともしない。
──しかし、ゾンビの人垣が踏み台となり、砦を覆う外壁を登り始める者も現れ始める。
壁を乗り越え、ゾンビやスケルトンなどが砦の敷地内へと侵入してきた。
また、ゴーストなど実体のない者たちは正面口から堂々と侵入して、砦の中の人間たちを探した。
──退路は断たれてしまった。
いくら何でも数が多過ぎる。例え、侵入してきたアンデッドたちと勇敢に戦おうとも、相手は五百万の軍勢である。包囲されて逃げ道はないし、殲滅をするだけの力は持ち合わせていない。
「すまないな、ニュウ……」
アルギバーは顔を伏せ、諦めムードだ。
「せっかく戻ってきてくれたのに、どうやらここでお終いみたいね……」
テラも同様に、その表情からは絶望の色が伺えた。
アルギバーやテラだけではない。この場の誰しもが圧倒的な戦力差を前に、戦意を失っていた。
──嫌だ。
ドクン、とニュウの中で心臓が鳴った。
──もう同じことは繰り返したくない。
お姫様が居て、仲間たちが居て──もう同じ状況にはなりたくない。
ニュウが纏う闇のオーラがどんどん増殖していった。
「お、おい……」
牙を剥き、目を血走らせるニュウにアルギバーは困惑したものである。
──アァアァアアァアアッ!
とうとう、扉を突き破りこの部屋の中にまで不死族のモンスターが侵入してきた。
「ミラージュッ!」
ニュウは咄嗟に手を翳す。中空に、どこからともなく出現した鏡が浮かぶ。
ニュウは間髪入れずに、その中に手を突っ込んだ。
──そして、鏡の中から何かを取り出す。
火のついた火薬玉が、鏡から出したニュウの手には握られていた。それをモンスターたちに向かって投げ付けた。
「危ない! 伏せろっ!」
アルギバーが叫び、一同は反射的に床に伏せた。
──ドーン!
爆発が起こり、黒煙が上がった。
直撃を受けたアンデッドモンスターの体は吹き飛んだ。──だが、粉々になったわけではない。破片がゆっくりと合わさっていく。
「何だ、その力は……?」
「ミラージュ……。この鏡は、世界中の鏡と繋がっているわ。私はその中から使えそうなものを引っ張り出しているだけよ」
ニュウは冷静な口調で答えた。禍々しい闇のオーラを全身から放っているニュウだが、どうやら意識は保たれているようだ。
邪気や殺気──闇の力を剥き出しているニュウが意外にも、この中で一番冷静で希望を捨ててはいなかった。
──アァアァアァッ!
さらに扉の外からモンスターたちが雪崩れこんでくる。爆発に巻き込まれたアンデッドたちも再生し、そのウェーブに加わる。
「やっぱり、再生できないまで細かく砕かなきゃ駄目ね。ただ倒せば良いという訳じゃないわ」
ニュウは息を吐き、アンデッドモンスターたちの前に立ち塞がった。した。
「私の命と引き換えに、あなた達を全員道連れにしていってあげるわ!」
体を包む闇のオーラが、自身の命を削っていることにニュウは薄々と勘付いていた。
それでも、ただでは死ねない──。
かつての盟友やお姫様を守るためにニュウは雄叫び、さらなるアイテムを取り出すために鏡の中に手を入れた。
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