Turn180.勇者『喫茶店』
「いらっしゃい。どこでも好きなところに座っておくれ」
喫茶店に入ると扉につけられていたベルが鳴り、店主の老婆がこちらに気付いてそう促してきた。
昼間の通りにはそれなりに人の流れがあるが、このお店は誰の目にも止まっていないようである。店の中には僕以外には他に客はいなかった。
老婆は暇をしていたようで、僕が適当な席に座るとすぐにおしぼりとお冷を持ってきてくれた。
「ご注文はなにか?」
「えっと……アイスティーで……それから……」
メニューをパラパラと捲って注文を考える。
ショーウィンドウには惹かれるものが置かれていたが、メニューは写真のない文字ばかりでイメージがし辛い。
適当に、パフェや摘みにポテトなどを頼んでみた。
「はいはい」と、老婆はわざわざそれをメモに取る。
「少々お待ち下さいね」
それで、丁寧に頭を下げた老婆は奥の厨房へと引っ込んでいった。
テレビがついていて昼間のワイドショーが流れていたが、音量はない。有線の音楽が流れているだけで、店内はとても静かだった。
「結構歩いたなぁ……」
しばらく入院していたので、どうやら体力が落ちてしまっているようだ。退院直後なので用件だけ済ませて帰るつもりだったのだが、とんだ寄り道をしてしまったものである。疲労感が半端なかった。
「はいよ、お待たせしました」
ほどなくして、老婆は注文した飲み物と料理をトレイに乗せて運んできてくれた。
テーブルにそれらを置いてくれる老婆に、僕は素直に「ありがとう御座います」とお礼を言った。
僕の丁寧な物腰に、老婆は快く思ってくれたようだ。
「お客さんなんて珍しいくらいだよ。ごゆっくりしていってね」
老婆は笑顔を浮かべると、カウンターの中へと引っ込んでいった。
「ふぅ……」
僕は椅子の背凭れに寄り掛かり、息を吐いた。
聖愛が来るまでにはまだ時間があるだろう。それまで、待っていることしか僕にはできない。
普段ならそんなことをしないだろうが──この時ばかりは思い付いたことがあった。
どうせ暇なのだ。買ったばかりのメモ帳とペンを取り出し、テーブルの上に置く。
買ったばかりのペンのフタを取って、僕はメモ帳に落書きをして暇を持て余すことにした。
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