Turn147.魔王幹部元賢者『人間の魔王幹部』

 魔王城の中を唯一、我が物顔で歩ける人間が居るとすれば、それはこの少女だけである。

 肩を怒らせながら大股開きに足音をドカドカと鳴らしながら、ニュウ・レンリィは魔王城の廊下を歩いていた。

 悪魔や下級モンスターたちが、そんな少女の姿を見てヒソヒソと声を顰める。

「なんだよ、あいつ。偉そうに……」

「所詮はただの人間だろう? やっつけちまえばいいのに……」


 ニュウの向かいから、彼女の身の丈の三倍はあろうかという巨大なサイクロプスが歩いて来てお見合いになる。

 ニュウは目の前に立ち塞がった巨体にも物怖じせず、キッと睨みをきかせた。

 体格差で圧倒しているサイクロプスは、当然そんな睨みにも余裕の笑みを浮かべて小鼻を鳴らす。

「邪魔だ。退けよ、人間」

 サイクロプスの横柄な態度に、ニュウは激高する。

「私に指図をしないで! 薄汚い魔物めが!」

「ああん?」

 ニュウの物言いに、サイクロプスも腹を立てたようだ。身を屈めたサイクロプスは眉間に皺を寄せてニュウへと顔を近付ける。

「人間風情が、いきがるなよ! 幹部じゃなけりゃ、貴様など一瞬で一捻りだからな!」

「だったら、今すぐやってみたらどうよ?」

 ニュウはビシリと、サイクロプスの眉間に向かって指を突きつけた。

「私は何もあなた達に協力してあげているつもりはないんだからね!」

「はぁ? それはどういうことだ?」

「愚かで裏切り者の悍ましい人間たちを滅ぼすために、徒党を組んでいるだけよ。小間使いとして、あなた達の力を利用しているだけに過ぎないわ」

「はぁん!?」

 ニュウの暴論に、サイクロプスはワナワナと肩を震わせて怒りを露わにした。──しかし、魔王が選んだ幹部相手に争いを起こせるわけもなく、ひたすら堪えるばかりであった。

 サイクロプスは身を引いて、横に避けてニュウに道を譲った。

──だが、ニュウは動こうとはせず相変わらず鋭い視線をサイクロプスに向けたままであった。

「不服なら、この場で消し去ってあげても構わないけれど?」


──早く行けよ!


 サイクロプスは内心で舌打ちをしながらも、穏便に済ませようと必死に苛立ちを抑えるのであった。

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