Chapter5【不死身の軍勢】

Turn146.姫『かつての盟友』

 大魔導師テラ──。

 剣聖アルギバー──。

 そして、お姫様を護衛するパーティーの一人としてもう一人の少女が居た。


 お姫様は、かつて勇者の代わりに自分のことを守ってくれた少女のことを思い返しながらしみじみと呟いたものである。

「勇者様の影も、段々と強まっているようですね。しかし、今一歩、勇者様をこの世界に呼び戻すには足りないようですね」

 お姫様は柴犬を膝に乗せながら言うと、テラが申し訳なさそうに顔を伏せる。

「私の力が及ばないばかりに、申し訳ありません」

「いえ。テラ様は、よくやって下さっておりますとも。ですが、もう一歩……あのお方に、お力添えをお願いしようと思うのですが……」

 お姫様が指した相手が誰であるのか、すぐにテラとアルギバーは気が付いた。

 ところが、途端に二人の表情は険しくなる。

「どうだろうな……。アイツが協力してくれるとは思えないが……」

「そうね……」

 アルギバーはおろか、テラまでも否定的である。

 そんな二人の態度に、お姫様は首を傾げた。

「なぜ、そう思われるのですか?」

「それは……彼女が、私たちのことを恨んでいるからです……」

 テラが言いづらそうに口を噤んでしまう。

 そんなテラに代わって、口を開いたのはアルギバーであった。

「……俺達の力が及ばなかったために、お姫様を守ることができなかった……」

 かつて三人で護衛したお姫様は──アルギバーたちの力及ばず、結果的に魔王城に囚われの身となってしまった。


 神妙な顔付きのアルギバーを責めるようなことはせず、お姫様は首を横に振るう。

「でも私はこうして勇者様のお陰で魔王城から逃げ出し、皆様の前に戻ることができました。気に止むことはありませんわ……」

「……あぁ、そうかもな……」

 アルギバーは頷いた。今さら過去の失態を後悔したところで変わりないのである。

「……だが、アイツはそうは思っちゃいない。……俺達のことを酷く責め立てたよ……」

 お姫様は少女の顔を思い浮かべながら首を傾げた。

「それで、どうなされたのですか?」

 言い淀むアルギバーに代わって今度はテラが口を開く。

「暗黒面に落ちてしまいました」

「暗黒……? それは、どういう……?」

 不思議そうなお姫様に、アルギバーは深く息を吐いてから言葉を続けた。

「魔王の幹部の一人として、寝返っちまったのさ」

 アルギバーの衝撃の告白に、お姫様は愕然としてしまうのだった。

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