次元の勇者様は今も異世界に影響を与えている

Turn142.勇者犬『攻守攻防戦』

「……なぁに、それ？ どういうつもりかしら？」

　目を瞑ったロディッツィオが真っ直ぐに自分に向かって突っ込んで来るので、大蛇子は呆れて肩を竦めたものである。そんな単調な動きなど、すぐに簡単に振り払うことができてしまう。

「勇者というのは、随分と面白いことをしてくれるのね。自分の体を使った、粗末な攻撃ですこと」

　横に体をずらして、進行上から外れてしまえばそれまでである。目を瞑ったロディッツィオには、大蛇子の位置は分からない。

「ワォオォオオンッ！」

　ロディッツィオの攻撃の軌道から大蛇子を逃がすわけにはいかない。

　ロディッツィオの行動を見て気が抜けていた大蛇子との距離を詰め、僕はその足に噛み付いた。

「痛いっ！」

　大蛇子は痛みに顔を歪めると、僕のことを蹴り飛ばした。

　間髪入れず、ホワイトドラゴンも応戦してくれる。滑空したホワイトドラゴンが大蛇子の頭上で旋回すると突風が巻き起こった。

　大蛇子は顔に袖を当てて、その場で突風や砂煙を堪えた。

『ご主人を守れ！』

『させるか！』

　既に体力の限界に達していたキマイラとグリフォンも、主を守るべく無理矢理に体を起こして参戦する。大蛇子の前──ロディッツィオの進行を阻むべく立ちはだかった。

　僕は体勢を立て直すと、キマイラの横から体当たりを食らわした。バランスを崩したキマイラはグリフォンごと倒れてしまう。

　そんなキマイラの体を踏み台にして、僕は大蛇子に突っ込んだ。

「い、いい加減にしなさいよ……！」

　くの字に折れ曲がりながら大蛇子が扇を振るって叩きにきたが、飛び退ってそれを回避する。

　すかさずホワイトドラゴンが咆哮弾を放ち、大蛇子を逃がさない。大蛇子の周囲で爆発が起こり、砂埃が巻き上がった。

「ああっ！ もうっ、鬱陶しいわね！」

　怒り狂った大蛇子が咆哮を上げる。

「うぉおおおぉおおぉおお！」

　砂埃の中、真っ直ぐに飛び出してきたロディッツィオの剣が大蛇子の前に出る。

「あっ、しまった！」

　大蛇子はその剣から逃れようと横に飛ぼうとする。

──させないぞ！

　だが、それを僕が許さない。咄嗟に反応し、大蛇子に体当たりを食らわす。

　結果、大蛇子はロディッツィオの剣の射程から逃れることができず──。

「うぉおおおぉおおぉおおっ！」

　ロディッツィオが真っ直ぐに突き出した剣が、大蛇子の胸部を貫いた。

「うぅっ！」

　大蛇子の剣で貫かれた胸部から、泥とも油とも取れるような茶黒っぽいドロドロとした体液が剣先を伝って垂れていく。

「こ、こんな奴に、私が……」

　口からも同様に茶黒の液体が吹き出された。

　ピキピキと、大蛇子の肌に亀裂が入っていく。

──これで終わりだ！

　僕はそんな大蛇子にとどめを刺すように、全身にオーラを纏ってパワーを増大させた。風を切って走り、凄まじい勢いのまま大蛇子に突っ込んだ。

「あぁあ……あぁあぁぁっ！」

　僕の体当たりを受けた大蛇子の体が、周囲に拡散して木っ端微塵に吹き飛んだ。

「う、うわぁあっ！」

　誰よりも一番に驚いたのは、大蛇子を殺めたロディッツィオだ。まさか本当に自分の一撃で、あんなにも恐ろしかった大蛇子を倒せるなどとは思いもしなかったようである。

　驚きの余り、その場に尻餅をついたものだ。

「おおっ！」

　村人が色めき立った。

「さすがは、勇者様だー！」

「勇者様がこの村を救って下さった！」

　尻餅をついたロディッツィオの背後で大きな歓声が巻き起こる。

　その声は何時までも鳴り止まなかった。

　ロディッツィオの勇姿を見届けたところで、僕の意識は──そこから離れていってしまう。

「ワンちゃん！」

　駆け寄ったマローネが駆け寄り、抱き上げたのは──ただの無垢な犬であった。