Turn141.偽勇者『奮い立つ偽者の勇者』

 そんな僕らの死闘を、ロディッツィオは呆然と見詰めていた。他の村人たちと同様に、まるで自分が観客であるかのように一歩離れたところで立ち尽くしていた。

 後退した僕の姿を見るとマローネは不安そうな顔付きになり、ロディッツィオに頼んだものだ。

「勇者様、お願いします。ワンちゃんを助けてあげて下さい。このままでは、ワンちゃんも死んでしまいます。……もしかしたら、私のことを気遣ってくれているのかもしれませんが……私は大丈夫ですから、行ってください!」

「えっ!?」

 そう言い出したマローネに突如背中を押されて、ロディッツィオはつんのめって前に出た。


 前に進み出たロディッツィオの姿に気が付いた村人たちが、歓声を上げる

「そうだ! ここには勇者様がいらっしゃるんだ」

「勇者様、お願いします! 勇者様! あの化け物を倒して下さい!」

「えっ、いや、私は……」

 村人たちの声援に、ロディッツィオは口篭ってしまう。困惑していると、ふと鋭い視線を感じてそちらに顔を向ける──鋭い目つきで睨みを利かせている大蛇子と目が合った。

「いよいよ勇者が参戦といったところかしら。獣相手も飽きてきたところだし、ちょうどいいわ」

 大蛇子は楽しくなりそうだと、フフフと笑みを浮かべていた。

──どうやら、大蛇子にはまだ余裕がありそうだ。僕やホワイトドラゴンの攻撃にも、もろともしていない。


「勇者様、いけぇっ!」

「勇者様、やってしまえ!」


 村人たちから熱意の籠もったエールがロディッツィオに贈られる。


「わ、私は……」

 ロディッツィオは恐る恐る大蛇子の顔を見た。

「なぁに? 掛かってこないのかしら?」

 戦いたくてウズウズしている大蛇子の目付きは余りにも鋭く、禍々しい殺意のようなものを感じたものである。

 ロディッツィオは蛇に睨まれた蛙状態で、足が竦んでしまって動くことができなくなってしまった。


──勇気を出せ!


 そんな声援がふと、ロディッツィオの頭の中に響いてきた──。


──君だけが頼りだ!


 ロディッツィオはちらりと僕に視線を向けてきた。

 僕はあくまでも目の前の戦闘に夢中で、そんなロディッツィオの視線には気付かなかった。

 ──でも、確かにロディッツィオの耳には勇者からの叱咤激励が聞こえていた。


──この状況から脱するには、君だけが頼りだ!


 ガクガクと恐怖で震えていたロディッツィオの膝が止まる。

 腰に携えた剣を鞘から抜き、剣先を大蛇子へと向けた。ロエニーから城で貰った一撃必殺の剣──これさえあれば、ひ弱な自分でも勇者の役に立つことが出来る。

 そう自分を奮い立たせたロディッツィオは、きつく目を閉じて意識を剣へと集中させた。

──この集中が途切れてしまえば、おそらく一撃必殺の効力も損なわれてしまうに違いない。


「うぉおおおぉおおぉおおっ!」


 気合いの咆哮を入れながら、目を瞑ったロディッツィオは大蛇子向かって真っ直ぐに突っ込んで行った。

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