Turn140.勇者犬『最後の決め手』
睨み合いの末、僕は先手を取って動き始めた。
「ワォオォオオンッ!」
咆哮を上げながら真っ直ぐに、大蛇子へと体当たりを繰り出す。オーラを発して覚醒することで、能力の底上げし勢いを強める。
──それでも、大蛇子は表情一つ変えず、扇子でそれを受け止めた。
僕が弾かれ、後方に飛び退いたのを見るなりホワイトドラゴンが雨霰の如く咆哮弾を放つ。
向かってきた咆哮弾に対し大蛇子は扇子を振るい、それらの軌道を変えて一掃する。
大蛇子の左右の背後に着弾した咆哮弾によって、爆炎が上がる。
「あらあら、たいした威力ね。当たってしまったら、大変なことになるかもしれないわ」
大蛇子はチラリと背後に視線を送ると、呑気に呟いたものである。
地面に着地した僕は、すぐに体勢を立て直そうとするが体の異変を感じてガクリと膝を落としてしまう。そんな僕の姿を見て、大蛇子はクスクスと笑った。
「随分と元気に動いていたけれど、ようやく毒が効いてきたみたいね」
──毒?
僕は苦しさの余り、身悶えしたものである。先程、大蛇子に引っ掻かれた時、爪に毒が塗られていたのだろう。もんどりを打ちながら、僕は倒れてしまった。
「そのままだと、貴方は死んでしまうわ。……でもね。勿論、助かる方法はあるわよ」
大蛇子は近付いて来ると屈み、僕の首を持ち上げて見詰めた。そして、フゥと息を吹き掛けた。
「永遠に凍ってしまえば、死ぬことはないわ。だから、二度と蘇ろうとはしないことね」
息を吹き掛けられた僕の体が、徐々に氷結していく。体の力が入らなかった──。
──グォオォオォオオッ!
ホワイトドラゴンが咆哮を上げ、翼を羽ばたかせる。強風が巻き起こり、大蛇子は顔を顰めた。
その風の中に、キラキラと光る粉が混じっている──癒やしの風である。
僕の体を被っていた氷が溶け出し、体内の毒も中和されていった。
ハッとなり、僕は目を覚ます。
僕が蘇ったことに、大蛇子は気が付いていないようだ。
「ガウッ!」
すかさず僕は大蛇子の首筋に噛み付こうと飛び掛かった。
──が、大蛇子は扇を僕の前に出してそれを受け止める。
「隙あらば噛み付こうだなんて……随分といたずらっ子ね。さすがは獣。それに動きが単調だわ」
──ぐぬぬぬぬっ!
僕は額に扇子がのめり込むことも物ともせず、なんとか前に進めないかと食らいついた。意固地になっていることもあるが、内心では焦っていた。
──後一手。
大蛇子に、どうにも手が届かない。
何か決め手が──大蛇子を倒すためには何かが一つ足りない。
扇子に弾かれた僕はやむを得ず後退するのであった。
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