Turn139.勇者犬『犬と龍の共闘』

「あらあら、珍しいこと。まさか、一介のホワイトドラゴンがこんなところに現れるなんてね……。それに、どうして勇者の味方をするのかしら?」

 大蛇子としても、ホワイトドラゴンの行動は意外だったようである。

 しかし、それは僕とて同意見である。確かに、負傷したポイズンドラゴンに治療を施したが中途半端なものに終わって、まだ完全に傷は癒えていない。

 わざわざ協力してもらう程の恩を売ったつもりもないのだ。


 ホワイトドラゴンは翼を羽ばたかせ、ゆっくりと地上に降り立った。

 そして、ギロリと民衆たちを睨み付けた。

 特に、お姫様やロディッツィオに向けられた視線は鋭かった。

『我の肉体に傷を付けた人間共の仲間も、ここに紛れておるとはな……』

 僕がホワイトドラゴンの真意を探ろうと見詰めていると、その視線に気が付いたホワイトドラゴンがフンと鼻を鳴らす。

『貴様からただならぬ気配を感じたからな……。貴様をこんなところで失ってはならぬ。……なんだか、そんな気がしたまでだ』


──ありがとう。

 その言葉が、ホワイトドラゴンの耳に届いているかは分からない。でも僕も感謝の言葉を伝えずにはいられなかった。


──絶対に、負けない!

 ホワイトドラゴンの援護と協力を受けた僕はさらに闘志を燃やして大蛇子に向き直ったのだった。


「残念だけれど、余り長いことは相手をしてあげられないわ。なんせ、この後はメインディッシュの勇者の相手をしなければいけないんですもの」

 そんな僕の視線を無視し、大蛇子はロディッツィオを睨み付ける。

「さっさとこちらは、終わらせてやるとしましょうか!」

 大蛇子は扇を取り出すと広げた。

 それを開戦の合図と、はじめに動いたのは僕だった。地を蹴って駆け出していく。砂埃を巻き上げ、さらに加速する。


 グリフォンが羽を広げて飛び立とうとするが、ホワイトドラゴンが息を吸い、口から咆哮弾を放ってそれを阻止する。周囲に爆炎が上がり、爆発風で上手く風に乗ることが出来ずグリフォンはまごついた。

 そんな隙だらけの胴体に、間合いを詰めた僕は勢いのまま頭から突っ込んだ。

「ギュエェッ!」

 悲鳴を上げ、地を転がるグリフォン──。


 立ち代わるように飛び出してきたキマイラが振るった鉤爪を、後転して躱す。すぐに前に飛んで顔面に体当たりをかましたが、大した勢いもつけられなかったので威力も小さかった。

 キマイラは一瞬怯んだが、すぐに苛立ったように眉間に皺を寄せた。


 僕はふとあることに気が付き、転がりながら後退した。

『逃げんのかっ!?』

──ドーンッ!

 キマイラの叫びは、轟音によってかき消された。

 空から落下してきたホワイトドラゴンが、その巨体でキマイラを押し潰したのである。

「ガ……ガル…………ル……」

 凄まじい衝撃に堪え切れず、キマイラはそのまま呻いて意識を失った。


 後退した僕は大蛇子に爪で引っ掻かれて、慌てて飛び去った。

 戦闘不能に陥ったキマイラとグリフォンを前に、ようやく大蛇子の闘志にも火がついたようだ。

「私は魔王軍幹部、白刃大蛇子よ。獣風情が、私と戦えることを感謝しなさい」

 大蛇子が睨みを利かせてきたので、僕もそれに応えるように身構えた。

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