Turn116.勇者『狂気到来』
「あぁ、そうか……。そういうことなんですね、勇者様……」
ふと精神科医が思い詰めた表情になって頷いた。
「そうか……貴方様は、私をお見捨てになられたんですね。私をこの世界に置いて、異世界にお戻りになられてしまったんだ……」
ブツブツと精神科医は呟く──。
「許せるかい? そんなこと……」
精神科医はデスクの引き出しを開けた。
「……許せないよね、そんなの……」
引き出しの中からナイフを取り出し、精神科医は虚ろな目をしながらそれを見詰めたのだった。
トタトタと廊下を歩いてきた精神科医は、ソファーに横たわる僕の側へと近寄った。
「勇者様。……どうか私の元に、戻ってきて下さいっ!」
そう叫びながら、精神科医は僕に向かってナイフを振り上げた──。
「何をしてるんですかっ!」
声を上げ、横から精神科医に体当たりをしたのは不知火である。間一髪のところで不知火からの助けが入り、二人は勢いのまま床に倒れた。
僕の体も同様に、縺れた二人にソファーを倒され、床に転がり落ちてしまう。
精神科医が手を離したナイフが、床に突き刺さる。
「いたたた……」
二人が痛みに悶えていると、聖愛が慌てて倒れている不知火に駆け寄った。
「大丈夫?」
「う、うん。それよりも彼を……」
顔を顰めつつ、不知火は僕へと視線を送った。
それに気が付いた紫亜が横たわる僕の体に駆け寄ってくれた。僕の体を支えながら起こし、部屋の隅に置いてあった車椅子へと座らせる。
「痛いじゃないですか……」
のっそりと起き上がった精神科医は、僕らに睨みを利かせてきたのだった──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます