Turn115.勇者犬『祠の盗賊団』

 洞穴から出てきたのは複数人の男たち──。

「グオオォオオォッ!」

 尚も白龍の咆哮が響いていた──が、それは男の一人が筒状の笛のようなものを吹いて発している音であった。


「おい。さっさと回収するぞ」

「へい!」

 リーダー格らしき髭面の男が顎をシャクると、他の男たちは頷いていそいそと動き出す。

 白龍への捧げ物として祭壇に供えた食料品や宝飾品などを洞窟の中へと運び込んで行った。


「何よ、あれ……」

 僕の横──草むらの中から一部始終を見ていたマローネは唖然としてしまっていた。

 まさか、村人たちが白龍への捧げ物として持って来た物が、こうして男たちに奪われているなどとは思いもしなかったのだろう。

「それじゃあ、白龍様は……?」

 そうなると、確かに疑問である。

 そもそも、白龍などというものが本当に存在しているのか──。単に男たちが騙っているだけに過ぎないのかもしれない。

 そんな事実を目の当たりにしたマローネは、かなりショックを受けているようで硬直していた。


 リーダー格の髭面の男の元に、慌てた様子で手下の一人が駆け寄る。そして、何やらコソコソと耳打ちをし出した。

「なんだと?」

 手下からの報告を聞いた髭面の男は、眉間に皺を寄せて険しい表情になった。

 かと思えば──不意に、僕らが潜んでいる草むらの方向をキッと睨んできた。

 僕らは咄嗟に身を屈めて草むらの中に隠れた。

──大丈夫。髭面の男たちは、まだ僕らの存在には気が付いていないはずである。

 そう思ったが、髭面の男は明らかにこちらに向けて声を上げた。


「嬢ちゃん、隠れたって無駄さ。あんたを好きにしていいってお達しが来たからな。観念して出てきてもらおうか」

 髭面の男が鞘から剣を引き抜いてそう言った。

 どうやら、僕らが潜んでいる場所がバレてしまっているらしい。

 何故こんな状況に陥ったのかは分からない。

 しかし、髭面の男が言った『お達しが来た』という言葉も気になるところである。


「ウゥーッ!」

 僕は唸り、牙を剥いた。

 マローネをこの場に巻き込んでしまったのは僕の責任である。草むらから出て男たちを撃退してやろう。──そう思ったが、不意にマローネの手が伸びて来て僕の体を抱き寄せた。

 マローネも不安なのだろう。怯えた彼女は、僕の体をきつく抱き締めた。


「おぉい! 出てこねぇってぇんなら、こっちも手荒な真似をしなきゃならねーぞ。泣いて詫びても遅えからな!」

 髭面の男が両手で剣を弄びながら叫ぶ。

 手下たちも「げへへっ!」と下衆な笑いを浮かべていた。

──どっちにしろ、大人しく出て行ったところで穏便に帰してくれることはなさそうだ。


 僕は身を捩り、マローネの手から抜け出した。

「ちょ、ちょっと……!」

 マローネが必死に押さえようとするが、僕はその手をすり抜けて草むらから飛び出していく。

「おおん? なんだぁ?」

 髭面の男が突如、草むらから現れた僕の姿を見て顔を顰める。

「小娘が犬を連れていたって話ですから、多分こいつのことですぜ」

「へぇー、そうかい……」

 髭面の男が手下からの説明に頷く。

「だったら……こいつを捕まえちまえば、嬢ちゃんも心を入れ替えて大人しく出て来てくれるだろう」

 髭面の男が僕に向かって手を伸ばして来る。


 僕は牙を剥き、今にも飛び掛らんとばかりに精一杯に髭面の男を威嚇した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る