Turn117.勇者犬『脱力作用』

「ギャンッ!?」

 僕は悲鳴を上げてしまう。

 あっさりと僕の体は、髭面の男が伸ばしてきた手に掴まれてしまった。

──どうしたことだろう。頭がクラリとしたかと思えば、体に力が入らなくて脱力してしまう。

「ワンッ!」

 それでもささやかな抵抗くらいはできた。掴んできた手にガブリと噛み付くと、髭面の男は悲鳴を上げた。

「痛ぇっ!」

 手が離され、僕の体は地面に落下する。

 たいした落差ではない。簡単に着地することができるはずであった。

──ところが僕は頭から地面に落下して強打した。

「クゥーン、クゥーン……」

 何故だか、満足に体を動かすことができなくなってしまった。受け身すら取れなくなってしまっているのは、どうしたことであろうか。


「こいつめっ!」

 髭面の男は噛まれたことで激怒し、僕に殺意を抱いたらしい。人間ならまだしも、僕は犬だ。何の躊躇もせず、殺す気になったらしい。

 剣を振り上げて僕の首を狩ろうとした。


「やめてっ!」

 茂みからマローネが飛び出してきて、僕の体をギュッと抱き締めた。

「ワンちゃんに、乱暴をしないでちょうだい!」

 すると、髭面の男はニタニタと笑みになる。

「なんだぁ。居るじゃねぇか」

 髭面の男は手を止めて、剣を鞘におさめた。そして、顎をシャクって仲間たちに指示を送る。

「まぁ、いいだろう。犬なんぞに構っている暇はねぇ。……おい、連れて行け!」

 男たちがマローネの周りを取り囲み、彼女の腕や髪を掴んだ。

「ワンッ! ワンッ!」

 威嚇とばかりに僕は必死に吠えたが、勝ち誇った男たちの耳には僕の叫びは届かなかった。

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