Turn104.勇者『荒療治』

「ご覧の通りさ」

 居間に着くと精神科医はソファーで眠っている僕の姿を、顎でシャクって見せた。

「あれから、ずっとあの状態だよ」

「ええっ!? 一回も、目を覚ましてないの?」

 不知火の驚く声に、精神科医は頷き返す。

「ええ。呼び掛けたり体を揺すったりはしているのですが、ご覧の通り……目を覚まさないんですよ」

 精神科医も介抱などで疲労が溜まっているらしい。疲れた目を擦りながらフゥと息を吐いた。

「私もお手上げでしてね。君らになにか良い考えがあれば、聞きたいんですけれど……」

 大人の精神科医が年甲斐もなく学生たちの意見を求める──相当に切羽詰まっているらしい。

「……と、言われてもね……」

 突然に、そんなことを聞かれた方も困ってしまう。

 聖愛と紫亜は目を合わせ、首を傾げた。


「くすぐるのはどうだろうなぁ?」

 冗談のつもりなのか本気なのか、不知火がそう声を上げる。

「そんなことで起きれば苦労しないと思うけど……」

「やってみなきゃ分からないじゃない! ……それ、こちょこちょこちょこちょ!」

 そうして不知火は、無抵抗な僕の体をくすぐり始めた──。

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