Turn105.勇者犬『連動する肉体』

「何か食べる物を用意するわね」

 自宅に帰ったマローネは、僕をソファーに座らせてキッチンへと向かった。

 木造の平屋にマローネは一人で暮らしているらしく、他に人影はない。

 キョロキョロと部屋の中を見回していると、唐突に体に異変が起こった。

──力が出ない……。

 脱力してしまい、立っていることが困難になる。──座っていることすらできなくなり、ソファーの上に寝転がってしまう。

 なんとか体を動かそうとするが、どうにも力が入らず何もできなくなってしまう。


「ふん、ふふーん、ふーん!」

 そんな僕の異変には気付かず、鼻歌交じりにマローネは肉を切っていた。

──動かない……。どうなっているんだ?

 僕の体はソファーの上から転げ落ち、床から顔面に落ちて強打してしまう。

──ドンッ!

 という物音に驚いたマローネが振り返る──。

「えっ?」

「クゥーン、クゥーン……」

 僕はマローネの前に立ち、喉を鳴らした。

「あら? 待ちきれなかったのかしら? もう少し待っててね。すぐ作るから」

 甲高い声で鳴く犬に、マローネは笑顔を浮かべた。

──それまでは動かなくなっていた僕の体だが、この時には普通に動くようになっていた。


 この時の自分の身に何が起きたのか分からず、僕は首を傾げるばかりであった。

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