Turn84.勇者『脱出のチャンス』

「おう。俺達が戻るまで、逃さねーよーにちゃんと見張っとけよ」

「分かってますよ! さすがに、俺らもそこまで雑魚じゃないっすから!」

 樹月に指示された金髪少年のハチは、拳を握ってみせた。


 僕らの見張りをハチ一人に任せて、他三人は部屋を出て行った。

「……僕達をどうするつもりだ?」

 ここぞとばかりに、僕は質問を投げ掛ける。

「へっへっへっ……」とハチは不敵に笑った。

「女の方は後で好き放題に遊ばせて貰うさ。どうせ、叫んでも誰も来ないだろーしさ。楽しむとするさ」

 ハチは下衆い考えでも浮かべているのか、鼻の下を伸ばし涎を垂らした。

 妄想の対象とされた聖愛は悪寒が走ったようで、体をブルりと震わせた。


──ブルルルル……!


 外で、車のエンジン音がした。

「他の連中はどこに行ったんだ?」

「ああ、忘れ物をしたから取りに行くってさ。ブチの奴が入れ忘れたって……こりゃあ、後でぶちのめされるだろうなぁ……」

 仲間が制裁を受ける様を思い浮かべて、ハチは楽しそうに笑っていた。

──このハチという男は、どこか抜けているらしい……。


 しかし、他三人が居ないとなれば、これは絶好のチャンスである。この場に居るのはハチただ一人であるのだから──。

 僕は聖愛に目配せをした。

「僕を信じてついて来てくれないか?」

 聖愛は言葉の意味が分からず一旦は首を傾げたが、頷いてくれた。

「はん? なにそれ? 愛の告白?」

 ハチがヘラヘラと笑って、茶化してくる。

 だが、僕が縄を解いてスクッと立ち上がったので、驚いた表情になる。

「あ? お前、なんで……」

「僕は何もしちゃいないさ。そっちが、きちんと縄を結んでおかなかったからだろう?」

 僕は鈍った体を解すように、首や肩を回した。

──そして、拳を握ってハチに向かって構える。

「はぁ? やる気か、コラァ?」

 座ったままの体勢で、ハチは僕に睨みを利かせてきたのだった。

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