Turn85.勇者『足元には御注意を』
僕は聖愛の手を取りながら山道を進んだ。
「キャンプ場はどっちかしら……?」
山の中──それも日が暮れているので、視界が悪かった。それに、車に乗せられて運ばれて来ただけなので、どちらから連れて来られたのか方角すら分からなかった。
「分からないけど……兎に角、ここから離れないと……」
廃屋に、いつ他の三人が戻ってくるか分からない。
拉致した僕らのことを、すんなりと逃してくれるとは思えない。あの三人が戻ってきたら、きっと死に物狂いで山狩を始めるだろう。
そうなる前に、できるだけ距離を取っておきたいところである。
「滑るから、足元に気を付けてね」
注意を促したが案の定、聖愛は足を滑らせる。僕は咄嗟に手を伸ばして、彼女の体を支えてやった。
「あ、ありがとう……」
聖愛は僕を支えに立ち上がると、お礼を行った。
「うん。構わないよ、気を付けて。先へ行こう」
さらに、山道を下って行く。
──これは、余り褒められた行動ではないのかもしれない。夜の山で、どちらとも分からない状況で動くのは遭難の危険もあるのだから──。
しかし、追われる可能性も考えたら、じっとなどしていられなかった。
「私達……助かるかしら……」
聖愛は少し弱気になっているようで、唐突にそんな弱音を口にした。
「大丈夫だよ。僕がついているから。いざとなったら、全力で君を守るし」
事実を言ったつもりであったが、聖愛は気休めとでも捉えたらしい。──まぁ、これまでの体たらくっぷりを見ては無理もないのだが──。
「さすがは、勇者様ね……」
聖愛を元気付けることが出来たようで、彼女はそう茶化して笑った。
泥濘んだ傾斜を、地面に手をつきながら慎重に進んで行く──。
「さぁ、ここも危ないから気を付け進んで……」
かなり足場の悪い道程である。踏ん張らなければ、斜面を転げ落ちてしまいそうである。
僕は支えになるために、聖愛に手を伸ばした。
聖愛も僕を頼りにしてくれているようで、すんなりとその手を取った。
「しっかり支えておくから大丈夫だよ」
そう聖愛に声を掛けた時──。
この最悪のタイミングで、僕の視界は暗転した。
「お、おい。今はやめてくれよ……!」
真っ暗闇の中──僕はズルリと足を滑らせてしまう。
『きゃあぁあぁぁっ!』
──どこからかともなく、聖愛の悲鳴が聞こえてきた。
しかしその叫び声も、いつしか僕の耳には届かなくなった──。
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