Turn63.勇者『遭遇』

 一部始終を僕らは呆然と見ていた。

 女性陣からしたら、恐怖で足が竦んだことであろう。紫亜は顔を引き攣らせて聖愛の腕に抱き着いていたが──聖愛は、肝が座っているのか、平然とした顔をしている。

 入り口が一か所しかないせいもあって、先輩──坊主髭面にサングラスの男と轟がこちらの方に歩いてきた。反射的に、僕らは彼らから目を逸した。

「ひゅー!」

 ところが、聖愛の顔を見た坊主髭面にサングラスの男が反応し、足を止めて口笛を吹いた。

 僕は反射的に身構えていた──。

 何をされるか、分かったものではない。

 聖愛はそんな坊主髭面にサングラスの男を睨み付けたものだ。

「……おい、何してんだ。あんまり、他の連中に絡むなよ。行くぞ」

「あ、ほーい!」

──ところが、先に行ったら轟に声をかけられると、坊主髭面にサングラスの男はあっさりと身を翻した。スタコラと走って、轟の後を追って行ったものである。

 何事も起こらず事がおさまり、僕らはホッと胸を撫で下ろしたものだ。

「怖かったねー」

「大丈夫よ、忘れましょう。気を取り直して、キャンプを楽しみましょうよ」

 涙ぐむ紫亜を励ますと、聖愛は再び僕らにコテージの案内を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る