Turn64.姫『マイペースな要人たち』

 十三人の依り代たちには、それぞれ城の中で部屋が宛てがわられた。必要なものがあれば何でもお姫様が家来たちに言い付けて持って越させた。

 食事やお酒は勿論のこと──武器や宝飾品なども、希望があれば手配をさせた。

 かなりの好待遇であるが、それ程までに依り代たちの役割は重要なのである。


 しかし、勇者を降臨させることができないのであれば、彼らを招いた意味すらなくなってしまう。

 不甲斐ない結果となり、テラは心底申し訳なさそうであった。

「もう一度、チャンスを下さい。次こそは、必ずや成功させてみせます」と、お姫様に汚名返上の機会を乞うたものである。


「姫様ぁっ! 大変です!」

──そんな折に、慌ただしい兵士の足音と叫び声が、お姫様の元に響いてきた。

「失礼します!」

 部屋に飛び込んで来た兵士は、余程急いで来たようでゼェハァと息を切らした。

「どうしたのですか?」

 兵士の慌てぶりから、何事かと自ずとお姫様の表情も強張った。


 そんなお姫様に対し──兵士は思いもよらぬことを口にした。

「依り代様四名が、城から抜け出しました!」

「あらあら……早速ですか。元気な方々ですね……」

「それは誰か分かるかしら?」

 呑気なお姫様に代わって、横から兵士にテラが尋ねた。

「一人は、剣聖アルギバー様であるとは、分かっていますが……」

 兵士の報告に、テラは頭を抱えたものである。

「また……! はぁ……」

 そんなテラの姿を見て、お姫様はウフフと笑うのであった。

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