Turn60.勇者『旅のはじまり』

「あれ? 寝ちゃったの?」

 それまでゲームに夢中であった不知火が、ふとして声を掛けてきた。


「いや、起きてるよ……」

 目を瞑っていた僕だったが、その声ですぐに目を開える。

「ほら。行きがてら買った飲み物、そのままだったから」

 そう言いながら、不知火はビニール袋からお茶のペットボトルを取り出して手渡してきた。そういえば新幹線に乗る前に、売店で不知火にまとめて買ってもらってそのままにしていた。

 僕もお金だけ払って忘れていたが、今更ながらに不知火も思い出したのだろう。

「ああ、ありがとう」

 不知火から差し出されたペットボトルを受け取りつつ、僕はお礼を言った。


 用はそれだけたったらしく、不知火は再びヘッドホンを耳に嵌めてゲームを始めた。また退屈になったので、僕は窓の外に視線を移した。


──さっきのは、いったい何だったのだろう。


 一瞬、視界がブラックアウトして、何かに吸い寄せられるようになった。かと思えば、邪悪な何かに弾かれて──結局は何も起こらず、この場に戻ってきていた。

──夢でも見たのか?

──それとも、これもまた異世界が関係する何かなのであろうか。


『まもなく、森川駅に到着致します……』

 新幹線の車内アナウンスが流れる。

「おーし、おりるぞ」


 前の席で、伊達村と紫亜がガサゴソと荷造りを始めたので、僕もそれに倣って身支度を始めた。

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