Turn59.姫『不発』
魔法陣から発せられていた光が、徐々におさまっていく。
光が完全になくなると、テラはフゥと息を吐いた。
「これで勇者様が、依り代たちの誰かの体に降臨されているはずです」
「そうですか……」
テラからの報告に、お姫様は頷いた。心臓の鼓動が高鳴るのを感じつつも、それを抑えて儀式を終えた十三人の依り代たちに問い掛ける。
「勇者様……お戻りになられたのでしたら、どちらにおられるか教えて下さい」
広間がしぃんと静まり返った。名乗りを上げる者は──誰もいない。
お姫様は首を傾げた。
「勇者様、勇者様。いらっしゃらないのですか?」
──やはり、誰も応えてはくれなかった。
「そんな……!?」
この状況に、当のテラも面食らっているようであった。驚きの余り開いた口が塞がっていない。
「降臨の儀式が失敗したってことですかね?」
ピピリ・ガーデンが疑問を口にすると、テラは首を横に振るった。
「いいえ、儀式が失敗することなどあり得ません」
「……じゃあ、なんだ? 結局、どうなっちまったんだ?」
剣聖アルギバーが尋ねる。
状況が理解できていないテラが、お姫様に代わって再度依り代たちに呼び掛けた。
「本当に、勇者様はあなた方の中におられないのですか?」
依り代たちは顔を見合わせた。
──名乗り上げる者はいない。
どうやら本当に、勇者がこの場の誰かの体に降り立ったということはないようだ。
「そんな……そんなはずは……!」
テラは信じられないといった様子で声を上げる。
「確かに呪文は発動したはずです。勇者様の魂も、この場に訪れているはずです。もしかしたら、それを拒む何かがおありになって、憑依までには至らなかったのかもしれません」
「それを拒む、何かとは?」
お姫様がテラに聞き返す。
「そうですね……。例えば、あちらの世界の勇者様の身に何かが起こった、とかですかね。こちらの世界に行き掛けて、あちらの世界に呼び戻されるようなことがあった……とかでしょうか」
「……なるほど」
お姫様も一応に、テラが儀式を失敗したことには納得したようである。
「おいおい。じゃあ、俺達はどうすればいいんだよ? 国を置いて、こんなところにまで来たんだがなぁ」
アルギバーが肩を竦めながら皮肉げに言った。
「今回は調子が悪かったのでしょう。また時間をおいて、やってみましょうか」
テラを庇うように、お姫様が提案する。
「お部屋はご用意しております。城の中は自由に使って頂いて構いませんが、皆様の身に何かあったら大変ですから外出はお控え下さい。どうぞ皆様、次回の時までごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
お姫様の言葉で、一度この場は解散となる。
依り代たちはゾロゾロと玉座の間から出て行った。
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